第25話 手を繋ぎたい

 ゴールデンウィークも終わり今日からまた学園生活がはじまる。

 ここ数日の悶々とした気持ちから解放された僕には、新たなミッションがある。


 それは衣織と手を繋ぐ事だ。


 僕と衣織が正式に交際した事実が伝わるのは時間の問題だ。だからこそ僕のアンチに僕が衣織の特別な存在だとアピールしたい。


 そんなことに拘る自分が小さな人間だってことは分かっている。


 でも、少しぐらいは学園のアイドルと付き合う優越感に浸りたい。


 敵意の中に少しでも羨望の眼差しが欲しい!


 まあ、それは建前で僕もお年頃なのだ。


 手を繋いでイチャラブしたい。


 あとほんの少し、ほんの少しだけ右腕をずらせば、衣織の手に触れる事はできる。


 でも、このあと少しが数百キロにも感じてしまうほど遠い道のりだ。


 進むべきか引くべきか……。


 うん、ヤバい。


 めっちゃ緊張してきた。


 このままでは、手汗で手を繋いだら気持ち悪がられてしまうかもしれない。


 落ち着け、落ち着くんだ鳴。僕はやればできる子だ。告白も上手くできたじゃないか。


 あの時の勇気を思い出すんだ。


「ねえ、聞いてる鳴?」


「え、あ、ごめん聞いてなかった」


「もう、今日から練習再開なのよ、しっかりしてよ」


 しまった!


 手を繋ぐ事に夢中になり過ぎて、話し半分になってしまった。なんとか取り繕わなければ手を繋ぐどころではなくなる。


「ちょっと考え事してて」


「は——っ、考え事って何よ。私と話しているのに考え事って失礼じゃない?」


 痛恨のミスだ!


 火に油を注いで、しまった。


 ここは、正直に打ち明けるべきか……。


 でも、どのツラさげて言うんだ?


「衣織と手を繋ぎたいって考えてて……」


 中学生かよ!


 言えない言えない言えない言えない絶対!

 そんなこと言えるわけない!

 まずここは、何か適当な言い訳で乗り切って、

 自然に、ごく自然に手を繋ぐ方法を考えるんだ。


「い、いいよ」


「え」


「だから手……繋いであげてもいいよ」


「え——っ!」


「なに! 自分から振っといて嫌なの?!」


「ち……違うんです」


 どうやらまた僕は心の声が漏れていたようだ。


「う……嬉しいです」


 男子生徒たちの刺すような視線と羨望の眼差しが僕に送られる。

 

 僕は期せずして本日最大のミッションに成功したのであった。



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