第16話 帰り道デート

 軽音部初日はつつがなく終わった。僕と衣織さんの演奏にあんぐりしていた皆んなの顔が印象的だった。


 そして僕は、衣織さんと2人っきりで帰宅の途につく。


 女の子と2人っきり。


 朝の再現の再現だ。気まずい。


 全く何を話していいのかわからない。音楽についても音合わせで語り尽た感がある。


 愛夏となら話題がつきることがなかった。


 というより、愛夏におんぶに抱っこだったと今ならわかる。


 我ながら情けない。


「鳴、今日はごめんね」


 衣織さんが申し訳なさそうな顔で切り出した。ごめんどころか助け舟です。


「ごめんだなんて、なんでですか?」


「今朝から鳴にいっぱい迷惑かけたから」


 確かに視線は痛かった。でも衣織さんが僕に興味をもって話しかけてくれるのは、素直に嬉しい。


「迷惑だなんて、とんでもないです。僕は、い…衣織が誘ってくれて嬉しかったです」


「本当に?」


 衣織さんの表情が明るくなる。


「本当です」


「じゃあ、明日からも誘っていいのかな?」


「もちろんです、でも好きかどうかも分からない僕に何故なんですか?」


「分からないからじゃない」


「え」


「私、嫌なの……分からないまま、うじうじ悩むの」


 耳が痛い。


「好きかもしれない……分からないまま、その感情に蓋をしたくないの」


「す、凄いですね衣織は……僕なら恥ずかしくて無理です」


「聞くは一時の恥っていうじゃない? それと同じよ。それに、確かめないとずっと後悔するかもしれない。私はそんなの嫌」


 さすが年上と言うべきなのだろうか、僕には真似できない素敵な考え方だ。


「でも……恥ずかしさゼロってわけじゃないのよ? 私も勇気だしてるんだからね」


 頬を赤らめる衣織さん。可愛すぎる。さすが学園のアイドル。


「私、はじめてなの……だからどうしていいか分からなくて、こんなやり方しかできないの。鳴が迷惑じゃなくてよかった」


 笑顔が眩しい。眩しすぎる。


「僕みたいなやつに……光栄です」


「結果、鳴のことが好きだった時、鳴はどう応えてくれるのかな?」


 一気に鼓動が激しくなった。


 僕はどんな答えをだすのだろうか。


 愛夏のこともまだ引きずっているというのに。


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