第14話 元カノなんです

 教室の空気はユッキーが上手く処理してくれた。ユッキーには感謝しかない。


 僕と衣織さんは屋上に来ていた。


 この時間は他の生徒も、ランチを取っているので、若干注目を集めてしまうが、他の場所よりはまだました。


 正直食欲なんてないが、衣織さんとはちゃんと話したい。正確には話したいというよりは、ちゃんと謝りたい。


 愛夏は元カノというだけではなく、僕の幼馴染。身内の不始末的な責任を感じてしまう。


「ごめんなさい、衣織さん、愛夏が迷惑かけてしまって」


「衣織さん?」


 睨まれた、またやってしまった。


「ごめんなさい、衣織……やっぱりまだ慣れなくて」


「愛夏さんはすごく、自然に「愛夏」なのにね」


「愛夏は、幼馴染なんで物心ついた頃から愛夏でしたし……それに元カノなんです」


「も……元カノ……」


「中学卒業した日に、フラれちゃいましたけど」


「そうなの」


「はい……」


「うーん、でも、あの子……まだ鳴の事が好きなんじゃない?」


「え」


 愛夏が僕のことを好き……。


 そんな事、あるはずない。


「だって、あの子すごいムキになってなかった?」


 たしかに……愛夏があんなにムキなるのは珍しい。


「普通さ、初対面の、しかも先輩相手に、あの剣幕で突っかかって来るなんてなくない?」


 言われてみれば、その通りだ。


「でも、愛夏には、好きな人ができたって……もう気持ちが戻ることはないってハッキリ言われました。きっと幼馴染だから、なんとなく放って置けなかったんだと思います」


「ふーん、幼馴染か……まあ余計な詮索はやめとく」


「なんかすみません、せっかく誘っていただいたのに」


「ううん、いいの、私トラブルにはなれてるし、迷惑かけている自覚もあったから」


「え?」


「私、自分が周囲に騒がれてるのも知ってるし、それで鳴に迷惑かかるのも分かってた」


「え」


 僕はてっきり、衣織さんは無自覚に周囲を巻き込んでるのだと思っていた。少し意外だった。


「それでも、私は鳴に頑張って欲しかったの」


「衣織……」


「私と一緒にいることに慣れてね鳴。でないと何もはじまらないわ」


 愛夏のこと、衣織さんのこと。


 僕は、青春のはじまりを予感した。



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