第13話 修羅場

 つい先日までの僕は、生ける屍だったかもしれないが、穏やかな学校生活を送っていた。


 だが今日は違う。


 昼休みの教室で、元カノであり幼馴染の愛夏と、

 部活の先輩であり、立ち直るきっかけを与えてくれた衣織さんが

 僕の事で、軽い口論になっていた。


 いわゆる修羅場だ。


「鳴、休み時間のたびに困るってどういう事?」


 衣織さんとの関係を、根掘り葉掘り聞かれる事だなんて、とても言えない。


「窪田先輩との関係を、根掘り葉掘り聞かれるからですよ」


 僕が答える前に、愛夏があっさりと答えにくいことを答えてしまった。


「私たちの関係? なんで私の関係について、根掘り葉掘り聞かれるの?」


「あ……朝から……朝からイチャコラ、名前で呼びあって同伴してたからじゃないですか!」


 何だろう、愛夏の圧が半端ない。


「い……イチャコラって」


「してましたよね?」


 そんなイチャコラした覚え、僕にはない。


「してない!……まだしてない……と思う……」


 ちょっと頬を赤らめる衣織さん。可愛い。


「してました!」


「じゃぁ、仮にイチャコラしていたとして、何がいけないの? そんなの私と鳴の自由じゃない?」


「その自覚のなさです! 窪田先輩はウチの学園では有名人なんですよ? その先輩とモヤシみたいな存在感しかない鳴が、朝から名前を呼びあってイチャコラしてたら、不自然に思いますよね? 興味わきますよね?」


 一応元彼……。


「なら、学園の有名人は、私は気になる人に、声をかけちゃダメなの? 一緒にいたいと願ったらダメなの?」


『『気になる人』』


 衣織さんの爆弾発言。


「き……気になる人……窪田先輩は、鳴のことが好きなんですか?」


 おい愛夏、なんてことを……。


「昨日あったばかりで、好きかどうかなんて、まだ分からない……でも……気になるから誘いに来てるのよ」


 衣織さんの「気になる人」発言で、教室の騒めきはピークに達した。


 視線が刺さる。


 視線ってこんなに痛いものだと思ってもみなかった。


「分かりました。 すみませんでした」


 愛夏が、衣織さんの横を通り抜け教室から出て行った。


 残された僕は、この空気……どう処理すればいいんだろう。


 

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