第10話 待ち伏せ 〜衣織視点〜

 いつもと同じ通学路。いつもよりも少しだけ早く出かけた私。きっとこの時間だったら彼に会える。


「おはよう、鳴」


「い、衣織さん……おはようございます」


 やっぱり会えた。といっても、待ち伏せしていたのだから当然だ。


「衣織でいいって、言ったじゃん」


「いや、でも、衣織さん年上だし、イキナリ呼び捨ては……」


 普段の彼はやっぱり煮え切らない。ギターを弾いている時の、グイグイ引っ張ってくる感じは全くない。


 ん、これって、もしかして……本気で嫌がられている?


 私は確かめずには、いられなかった。


「なによ、鳴は嫌なの?」


「とんでもない! めちゃめちゃ嬉しいですよ……でも「なら衣織よ!」」


「私の専属ギタリストだしね」


「わ……分かりました、い、衣織」


 彼は押しに弱い。


 男の子って、もっとがっついているイメージだった。付き合ってもいないのに下の名前で呼んで「俺の女」アピールしてくるものだっと思っていた。


 でも鳴は全く違った。


 ——そして、沈黙が続いた。


 どうしよ、何か話さないと……。


 最初から鳴には期待していなかったが、想像以上にダメな子だった。


 趣味……ってギターよね……分かりきったことを聞くのも馬鹿馬鹿しい。


 思いきって好きなタイプを!……ってそれじゃ、チョロイン宣言したようなものだし……。


 好きな食べ物、お弁当つくってあげたい!……って私の料理スキルは入門以前だし、気が早すぎる……。


 あーん、男の子と2人っきりで音楽のこと以外話すことなんかないから、何話していいか、分かんない……。 


 そして、会話のないまま、校門が見えてきた。


 違うじゃん! 音楽の話でいいじゃん! 昨日のセッションのこととか詳しく聞きたいし! 共通の話題あるじゃん!


「「あの」」


 私たちは顔を見合わせた。


「あ、い、衣織から、どうぞ……」


 レディーファーストの意識はあるようだ。


「え、な、鳴からでいいよ」


 でも、どうせならリードしてもらいたい。


 なんか、鳴の緊張が伝わってきて、私まで緊張してしまう。


「衣織、昨日のセッションの事だけど……」


『『衣織』』


 外野が騒がしい。黙るんだ、学年違いの私たちの、朝の貴重な時間を邪魔するんじゃない。


「どうしたの、鳴?」


『『鳴』』


 負けるな鳴。私は気にしていない。


 でも、私のそんな想いは彼に届いていないようだった。


 鳴をその気にさせるのは、思ったよりもハードルが高そうだ。


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