第9話 通学路にて

 高校生活にも慣れたいつもの通学路。いつもと違う出来事に戸惑う僕。


「おはよう、鳴」


「い、衣織さん……おはようございます」


 何と、衣織さんが「ピンク事件」現場で、僕を待っていたのだ。


「衣織でいいって、言ったじゃん」


「いや、でも、衣織さん年上だし、イキナリ呼び捨ては……」


「なによ、鳴は嫌なの?」


「とんでもない! めちゃめちゃ嬉しいですよ……でも「なら衣織よ!」」


「私の専属ギタリストだしね」


 問答無用だった。


「わ……分かりました、い、衣織」


 女の子の名前を呼ぶってこんなにも、緊張するものだったのか?!


 愛夏の時は、物心ついた頃から愛夏だったから、分からなかった。


 そして、沈黙が続く。


 気まずい……。


 なにを話していいのか分からなかった。


 趣味……そうだ、こんな時は趣味が鉄板だ……って絶対音楽じゃん!


「なに、分かり切った事聞いてるのよ」って一蹴されて終わりだ。


 好きなタイプは……ってそれじゃ、僕が衣織さんを狙ってるみたいじゃないか!


 好きな食べ物は……ってお見合いかよ!


 ダメだ……女の子と2人っきで、何を話せばいいのかなんて、僕には分からない。


 イキナリ高いハードルだ……。


 そして、会話のないまま、校門が見えてきた。


 違うじゃん! 昨日のセッションだよ! 話題あるじゃん!


「「あの」」


 2人で顔を見合わせる。


「あ、い、衣織から、どうぞ……」


「え、な、鳴からでいいよ」


 もじもじしながら譲り合う2人。

 

 中学生かよ! って思ったが、つい先日まで、僕は中学生だった。

 

 でも、僕は意を決して切り出した。


「衣織、昨日のセッションの事だけど……」


『『衣織』』


 僕が衣織さんの名前を呼んだ刹那、周囲の男子たちからの視線が僕を突き刺した。


 そうだ、彼女は我が校のアイドルなのだ。


 結衣さんの言っていた意味が今、理解できた。


「どうしたの、鳴?」


『『鳴』』


 衣織さんが僕の名前を呼んだ刹那、周囲の男子たちからの視線が僕を突き刺した。


 衣織さんに気付ている様子はない、無自覚な上に鈍感なのだろう。


 こ……これはハードルが高い。





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