第7話 衣織の抱いた好意 〜衣織視点〜

 イントロのアルペジオがはじまった。とてもシンプルなフレーズなのに心が踊る。同じフレーズでも弾き手が違うとこうまで違うのかと衝撃を受けた。


「エモい」鳴のギターはこの一言に尽きる。


 鳴のギターに歌を乗せたとたん、私は翼が生えたかのような感覚に陥った。


 初セッションなのに、普段よりもずっとリラックスして歌えている。


 私の歌に合わせて鳴のギターが変化する。


 まるで私の事を知り尽くしているかのように。私の五感を刺激する。


 私は、感情が高ぶって行くのがわかった。今まで味わったことのない高揚感。


 鳴のギターに溺れていく。


 つか……。


 格好いい。


 何でさり気なく、こんなにも高度なことができるの? 何者? 私の推しよね? 私のことが好きなの?


 鳴がギターを弾く仕草はとてもセクシーだ。


 「ギャップ萌え」が脳裏に浮かんだ。あんなにもナヨっちい彼が、こんなにも私をグイグイ引っ張る。


 ていうか、なに、その男らしい表情……。


 私の心を掴んで離さない。


 感情が入っていく。


 鳴のギターに。


 鳴に。

 

 身体が熱い、頭が真っ白になる。音楽でこんなにもエクスタシーを感じたのは、はじめてだった。


「凄いじゃん君、何者なの?」


 気が付いたら結衣が、私たちに拍手を送っていた。本当に無我夢中だった。


「入部希望です」


「おー! 大歓迎だよ!」


 ん、なぜ握手を求める、やめろ。


 って、何で……私、もしかして嫉妬?


「鳴……アンタ」


「はい」


「わた、わた、私の専属ギタリストにならない?」


 やだ、専属ってなに! そんなにつもりじゃなかったのに、私おかしい……。


「…………」


 なによ、この沈黙は……やっぱり専属って重い?


「よろこんで」


 素直に嬉しかった。


「あっ……ありがとう!」


 私は結衣に見せつけるように、両手で握手を求めた。


「ねえ、結衣、いいよね?」


「いや、いいも何も本人が良いって言ってんだし……つか、衣織ソロで通すって言ってなかった?」


「無理よ」


「ん? 何が?」


「あんなプレイみせられてしまうと……」


「んー、よくわかんないけど、鳴はラッキーだったね」


 何のことでしょう……。 


「我が校の、歌姫でありアイドル、窪田衣織のハートを射止めるなんてね!」


「は……ハート……」 


 えっ、私そんなに態度に出てた?

 気付かれちゃった?


 私がそんなチョロインみたいな……


「い、射止められてなんかいないわよ! 」


 私はそのまま部室を飛び出した。


 精一杯の抵抗だった。


 これが恋だと気付くのに、

 時間は掛からなかった。



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