第5話 ツンデレチョロイン

 3分もない短めの曲が、永遠のように感じられた。ここまで演奏に熱が入るとは、自分でも思っていなかった。


 曲が終わると、拍手が聞こえてきた。


「凄いじゃん君、何者なの?」


 拍手の主は、少しパンキッシュで明るい髪の、可愛系女子だった。僕は、彼女が部室に入って来たことに、全く気付いていなかった。


「入部希望です」


「おー! 大歓迎だよ!」


 彼女は、ずいっとこちらまで寄って来て、両手で握手してきた。


「ウチは、川瀬かわせ 結衣ゆい、結衣でいいよ」


 また、下の名前だと……。


「君は?」


「僕は、音無おとなし なるです」


「オーケー鳴、よろしくね」


 また、呼び捨てだと……。


「よろしくお願いします」


「鳴……アンタ」


 僕達のやり取りをじっと見ていた、衣織さんが声をかけてきた。


「はい」


「わた、わた、私の専属ギタリストにならない?」


「…………」


 正直戸惑った。


 僕は昨日、いつか衣織さんと、一緒にプレイできる事を夢見て、前に進むことを決めたばかりだったのだ。


 その彼女から、イキナリ誘われたのだから戸惑いもするだろう。


 ——でも、前に進むと決めた以上、悩む必要はない。


「よろこんで」


 夢はあっさり叶ってしまったが、本当に大変なのは、叶ってからだと聞いたことがある。


「あっ……ありがとう!」


 衣織さんも、ずいっと両手で握手してきた。


「ねえ、結衣、いいよね?」


「いや、いいも何も本人が良いって言ってんだし……つか、衣織ソロで通すって言ってなかった?」


「無理よ」


「ん? 何が?」


「あんなプレイみせられてしまうと……」


「んー、よくわかんないけど、鳴はラッキーだったね」


 僕もそう思う。


「我が校の、歌姫でありアイドル、窪田衣織のハートを射止めるなんてね!」


 ま、マジか!


 確かに衣織さんは、めちゃめちゃ可愛くてスタイルよくて……それに……良い匂いだったけど。


「は……ハート……」


 ん、衣織さんの反応が変だ。


「い、射止められてなんかいないわよ! 」


 衣織さんはそのまま部室を出て行ってしまった。


 何だ……このツンデレチョロインみたいな反応は……。


 まさかガチ?


 んなわけないよな……。


 とりあえず、僕は1日にして夢を掴み、前に進むことができそうだ。



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