第4話 窪田 衣織

 ピンクの彼女と、思いがけない場所で再会した。あの時のビンタがフラッシュバックして、一瞬体がびくんとなってしまった。


「あ、アンタは、あの時の視姦野郎」


 視姦野郎……。


 確かにガン見はしたけど、そこまではしていない。むしろ、強過ぎた刺激に戸惑っていたぐらいだ。


「あ……あの時のは、どうも、ありがとうございました」


 ん、今、僕、何て言った?


「はあ————っ!

やっぱりイヤラシイ目で見てたんじゃない! それとも、ビンタされて喜ぶドM?」


 ヤバい、緊張して間違えちゃった。

 それにしても、ドMって……酷い誤解だ。


「ち、違うんです……言い間違いです!」


 めちゃめちゃ睨まれている。怖くて直視できない。


「まあいいわ……で、ここで何しているの?

つか、なんでアンタが、私のオリジナルを弾いていたの?」


 おや?

 今、私のオリジナルって聞こえたが……。


「音無 鳴です! 入部希望です! 勝手に機材使ってスミマセンでした」


 取り敢えず、順を追って答えよう。


「そう、入部希望なの、機材の件はいいわ、学校の共用物だし……それよりも、

何で私のオリジナルを弾いていたの?」


 今度は、ハッキリと聞いた。私のオリジナル……ピンクの彼女が、SNSの彼女と同一人物?!



「最近のお気に入りなんです! SNSで見つけて、それからずっとこの曲に……いえ、歌声に惹かれて!」


「私は窪田くぼた 衣織いおり。衣織でいいわ、鳴」


 い……イキナリ呼び捨てだと……。


「ねえ、弾いてみて。

私、鳴のギターで歌ってみたい」


 もしかして、イキナリ夢叶う……。


 なんて日だ!


 ——僕は少し戸惑いながらも、演奏をはじめた。


 イントロが終わり、彼女の歌が乗った瞬間、震えが止まらなくなった。


 緊張で震えているとか、そんなのじゃない。


 身体中の血が騒ぐのだ。


 彼女の歌と、僕のギターが生み出すアンサンブルが、これまでに味わった事のない高みへいざなう。



 ただ、ピックでコードをかき鳴らすだけじゃダメだ。

フィンガースタイルとスイッチしながら、彼女の声とメロディをもっと引き立てるんだ。


 もっと、もっと、もっと感じていたい。


 この時を永遠に感じていたい。


 止まっていた、僕の時間が動きはじめた。


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