第3話 SNSの彼女

 家に帰るとベッドへ篭る。そしてひたすら動画をみる。最近唯一の楽しみだ。


 その中でも僕は、1人の女性アーティストに夢中になっていた。


 アコースティックギター1本で弾き語る彼女の歌声は、透き通るようでありながらも、伴奏に負けない力強さを兼ね備えている。


 煌びやかで伸びのあるトーンは、なんとも言えない優しさと憂いを醸し出している。


 僕は彼女の歌声に惹きつけられた。


 まるで僕の心を癒してくれているかのように思えた。


 僕は久しぶりにベッドから出てギターを手に取った。


 愛夏にフラれてから、何もやる気も起きなかった僕だが、彼女の歌に合わせてみたくなったのだ。


 ——抗いがたい衝動だった。


 いつ以来だろう。


 ギターを弾くことをこんなに楽しく感じたのは……。


 僕は幼い頃からギターを始めギターは僕の夢だった。


 だかそれが、いつの間にか重荷になっていた。


 でもそれは僕が心変わりしただけだ。


 まるで今の僕だ。


「よし」


 僕はギターと自分を重ね合わせた。心変わりされたもの同士、うまくやっていこうぜと思った。まあ、ギターをフったのは僕だから、若干の後ろめたさはある。


 彼女といつかセッションする。

 これを目標に頑張ろうと心に決めた。


 ——明くる朝、僕はギターを持って登校した。

 昨日と同じ通学路だが、ピンクの彼女は見かけなかった。


「ちっす、なる


「おはよう、ユッキー」


「あれお前、それどうしたん?」


「軽音部に入ろうと思ってさ」


「おー! ようやく高校生活を楽しむ気になってきたのか」


「そうだね、ありがとうユッキー。ずっと励ましていてくれて」


「水臭いこというなって」


 ——そんなわけで放課後。早速部室を訪ねてみた。


「失礼します」


 誰もいなかった。


 ただ待っているのもつまらないので、アンプを拝借してギターをかき鳴らした。


 この感覚、久しぶりだ。


 僕はSNSの彼女の曲を弾いた。彼女の歌声に合うように、彼女の歌声を引き立たせるように、自分なりにアレンジしたバージョンだ。


「その曲……」


 誰か来たようなので、演奏を止めて振り返った。


「すみません、勝手に機材使わせてもらって……」


「「あ」」


 ピンクの彼女だった。



  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る