文輪帝国興亡の歩み

鶴崎 和明(つるさき かずあき)

第一巻 「始まりの五氏」

緒言

 ある日、私の玄関先に見慣れぬ箱に入った物が置いてあった。初めは、それが何かは分からず、放置していたが、暫くして空けてみると、そこには数万枚にも及ぶ紙が封入されていた。その紙には、見慣れぬ文字が記されており、その箱の一番上に入った封筒の中に、その文字の解読表と、以下のような手紙が付いていた。


 どのような人物がこれを手にするかは存じませんが、どうか、これを皆様に広めてくださいませ。この歴史は、貴方方の平行世界における出来事であり、歴史であり、真実なのです。ですから、決して封印されたりなどせず、真実を公表して下さい。


 読了後、私はその紙の束を少しずつ読解していった。当然、言語体系が異なる為に、その読解は難航を極め、その文章は非常に読みづらいものとなってしまった。それでも、それが一冊分完了する頃には、私はこれらの書物を基に、この書物たちによって書かれている歴史を私の手で書き直すことを決心したのである。

 この理由としては、私の感じた疑問を共有していただきたいという一点に尽きる。何故、この帝国は形成されたのか。何故、この帝国は繁栄したのか。何故、この帝国は滅んだのか。そして、この疑問を共有するには、個々の作品を訳すだけでは不十分であり、故に、書き直す必要があると考えたのである。なぜなら、この空間における思考を共有した上で論議する事は不可能だからである。同時に、理解にはそれ相応の解釈が必要であり、それができるような暇人は私を除いて、他には見当たらないのである。

 このような試みは私にとって初めての出来事であり、困難な作業でもある。それでも、この知的好奇心の赴くままに書き進めてゆきたいと思う。

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