2-3 夢現、運命の出会い
そのころカテラは遺跡の中枢部分に到達していた。周りは継ぎ目すら見当たらない白い壁で覆われている。ガードメカが居ない事をみると、やはり先ほどのメカは遺跡荒しが持ち込んだものだったようだ。
地面が揺れたような気がする。
隔壁を抜けようとしたところで、地面が少し揺れてきている事に気がついた。壁がキシリとうねりをあげて微かに振れている。
こんな地震はひさしぶりだ、立っていられないほどの揺れが足を伝わっている。
旧文明の遺跡で地震が起きるなんて考えられないことだ。何らかの異常が起きていることは間違いない。
「こんなときに…何なんだ今日は…」
下のほうで鈍くいやな音がして、地面に振動が走る。カテラは急いで壁際へ移動しようとしたが、次の瞬間、地面に円形の穴があいた。
「えっ、ちょ、なぁぁああ!?」
カテラは足は空を歩き絶叫と共に真っ逆さま。暗く深い空間に落ちて行った。
▽
この感覚は何だろうか、柔らかく暖かい泥の様なものにつつまれている、深く深くへ沈んでいくような、どこか別の世界へ誘われる様な、経験したことのない感覚。
目の前は無音の闇だけしかない世界、だけど微かに聞こえてくる心臓の鼓動だけはハッキリと耳に聞こえてくる。ゆっくりと時間が流れているような…。
永遠とも思えるまどろみの暗闇の中で、その先に光が現れた。
急に自分が、このまどろみが不安で仕方なくなった。ひどく苦しく胸が重い。
今まで暖かく柔らかであった物が鋭く冷たく、重く苦しくなった。
それと同時に、自分の体が、腕が脚が胴も顔も掌も、全ての感覚があるように感じられる。
あの先、光の中へ行かなければ自分が消えてしまうであろうことも。
ゆっくりと体を動かす、まるで粘土の壁を削りながら進んでいるようだ。
遠く遠くに見える光へと確実に進んでいるはず…、
だめだ、これでは間に合わない、もっと早く、もっと、もっともっと。
体の感覚が戻ってくる。私ははいつの間にか走っていたようだ。あの重苦しく息苦しい感覚は消えていた。これなら何とか間に合うだろう、あの先、光の先へ。自分が本来居るべき、在るべき場所へ。
目が覚めた、いや途切れていた意識が覚醒したのだろうか、体がひどく痛む。
「う、ぐ」
痛みでうめき声が出る。よかった、声は出るみたいだ。
周りの景色は薄暗く、下に積まれていた何かのおかげで衝撃はそこまでじゃない。
上を見上げると大分高いところに天井がある、穴は消えているがそこら辺から落ちてきたことは間違いない。大砲は近くに落ちていた。
それにお尻の下に何か轢いている。
四角い棺桶の様な物だ。周りにさまざまなプラグが繋がっていて、冷気を発している。
「まさか、冷凍睡眠装置か?形が違うな…なんだこれ」
カテラが蓋のような部分に触れると、青い文章が宙に浮かびあがる。
《再生人殻№03‐解凍》《内線から離れてお待ちください》
すぐに装置から離れてそれを見守る。装置は静かな音を立てながらゆっくりと開いた。中には黒髪の少年が眠っている様に目を閉じている。白い病衣の様なものきているようだ。
「んん…ふぁぁ」
眠気眼で目をこすりながら大きな欠伸をした。透き通った声。なんかこういい声だ。
少年があちこちを見てから此方を向いたので
「お、おはよう…」
カテラは困惑しながら言った。これからどうしようかとか考えながら、とりあえず今できる挨拶をした。少年は小さく会釈した。
まさか本当に旧人類が眠っているとか考えもしなかった。体に走る薄いラインのような痣から見ても冷凍睡眠を行っていた旧人類の総合的な特徴とも一致する。
「ここは何所ですか?貴方は誰ですか?」
困惑した表情が見て取れる。
「私の名前はカテラ、君を外に連れ出しにきた。なにか覚えてる事はある?自分の事とかさ、なんでもいいんだけど」
「なにも…何も覚えていない。名前はセリだって事は分かるけど…」
少年はうつむいてしまった。冷凍睡眠の弊害だろうか、そこまで詳しくはないが、たまにある記憶障害だろう。記憶を失うというのは辛いものだ。自分の置かれている状況も場所もなにもが分からないというのは不安で仕方ないから。
「セリ君か。ま、その内思い出していくよ。とりあえずここから出ないとね。歩ける?」
カテラは手を差し出した。
セリは「ありがとう」といって手を握った。カプセルから降りるとき少しふらついていたようだが、概ね大丈夫みたいだ。
「ここはまだ危ないから、もっと安全なところまで行ったら話そう」
安全なところと言っても装置の周りはプラグがいっぱいあって自分が落ちてきたところ以外に道がなさそうなくらい周りは壁しかない。扉なんてどこにもないようだった。
「さぁて、出口を探さないと…んん?なにこれ?」
カテラは棺桶の真後ろに隠すように置いてある白い箱を見つけた。変哲もないトランクサイズ。手にとって周りを見てみたが、外装を見る限り、コード式で開く奴だろう。
セリが箱を見つめている。カテラはセリに箱を手渡した。
「解除判定、確認」
セリが言葉をつぶやき箱に手をかざすとカプセルの時様に青いサイバーチックな文章が表示され掌に不思議な紋章が浮かび上がった。
<管理者権限によって箱の幽閉を解凍します>
紋章から箱に向かってか細い文字列の様なもが打ち出され箱に吸い込まれるように消えていった。すると箱の四隅が瞬時に四方に分かれ開かれたようだった。
中には一枚の紙切れと、ジャケットの様な服が入っていた。
カテラは紙切れを拾って顔を近づけた。紙には、とうをのぼれ、と、かすれた字で書かれている。
『とうをのぼれ?』二人は顔を見合わせて言いった。
突然強烈な頭痛がセリを襲った。目の前にぼやけた景色が映る。一面が真っ白く機械に囲まれた空間が、巨大な窓があり、空が、星が見える。
徐々に景色が鮮明になり、セリの周りを塗り替えていった。
▽
気付くと周りは完全に別の場所に代わっていた。どこかの施設なのだろうか。
目の前に誰か立っている。窓のほうを向いてはいるが背格好や体格からして男性と、女性だろう。
「どうした…?(雑音)、調子…が…で…悪…か?」
男が不意に振り返り話しかけてきた。赤色の髪をした若い青年だった。
どうしてか自分の名前が入っているであろう場所はどうしても聞き取ることができない。
「いや、そういうわけじゃないんだよ、レーヴェ」セリは言葉を発しようとしたが、その前に自分の中の何者かがレーヴェと呼ばれた男に答えた。
レーヴェという男が呼んだ聞き取れない名前はこの何者かの名前なのだろう。
「ただ、なんとなく不安なんだ。星の再生が成功したとして、この世界が正しい方へ進んでいくのかなんて分からないわけだろう。俺たちは、本当に正しい事をしているのかって…」
何者かがひどく落ち込んでいるような声で答えた。
「正しいも悪いもそんなのは後回だ。先に修復しないと、この星は百年もたたずに滅んでしまうからな。だからこそ、『箱舟』がこんな塔を作ったんだろ。」
「大丈夫だ、(雑音)。再生に失敗はありえない。僕たち二人と彼女が居るんだからな。なぁココノエ?」
レーヴェは女性の方に顔を向け答えた。その声には絶対の自信が現れているようだった。
ココノエと呼ばれた女性がこちらを向けて振り返った。
彼女の顔をみてセリはたじろいだ。
顔が、表情を感じることもできないほどに黒く塗りつぶされていたからだ。
「セリ、ここまで来てみなさい。あなたの価値を私に示してみなさい」
「彼がそうしたように、君も」
「君にはそのための力がある、彼にはない特別なモノ」
ココノエはそう答えた。
聞き取れない何者かの名前ではなく、ハッキリと自分の名を呼んだのだ。
「僕は、なんなんですか?」
黒く塗りつぶされた顔は、ふっと笑った様な風に首を曲げ、こちらをじっと見据えながら答えた。
「その問いには答えられない。それは君が見つけることだ」
「自分の足で歩き気長に探すといい」「時間はたっぷりあるんだから」
瞬間、周りの景色が崩れだしココノエも吸い込まれるように消えていきました。
瞬きをしたときには既に景色は元の暗く機械だらけの部屋に戻っていました。
頭痛も完全に失せている。
「リ…セリ…セリ!」
カテラがセリに何度も呼びかけている。
「あ、ああ。大丈夫です。急に頭が痛くなってそれで…」
さっきのは何だったのだろうか?白昼夢の様なものだったのだろうか。
「あの、夢みたいなのを見てたんです」
アレが何であれ、所在は分からないが塔を登るには、この部屋を出なければいけない。だが出口がこの部屋には…と思ったところで、部屋の変化に気がつきましたさっきまで、ぴったりの隙間なく閉まっていた壁に扉がありしかも開いていた。奥は仄かに光がついてはいるが、ここよりも明らかに暗い道だった。
「セリがああなった後少したってから開いたんだよ」
セリはココノエの言葉を思い出し、カテラと一緒に部屋を出て通路を進んでいった。
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