第6話 悲しき決着

寒さ耐性が着いてるとはいえ、高レベル冒険者の使用する魔法から放たれる冷気を完全に防げる訳では無い。


しかも冷気には、寒さを感じさせるだけでなくミリ単位だけど継続ダメージを与えてくる。氷を溶かして行かねばなるまい。


「さずかっすねサナさん。しかしながら、俺の使えるスキルに氷を溶かせる物があるのを知ってすぐに氷を張るなんて、馬鹿だねぇ」


「まあ、溶かすつもりは毛頭ないがな。喰らえ、【パーソナル・オブ・ファイヤ】混沌の炎


この世界でイレギュラーなことはたくさん存在する。現在のような、張られた氷の一部が餅のように伸びて襲いかかってくることもまたその一つ。


「いくら魔法でもこれ、やりすぎだろ……」


ド肝を抜かれつつも、俺は交わしながらサナへ近づく。あと10メートル。いける。あと5メートルのとこで俺の剣が形状変化を開始する。


そして、形状変化をやり終えてサナの鎧に思いっきり炎が真っ直ぐにぶつかる。形状変化はまるで真っ直ぐに進むビームのように相手を攻撃する。実際、このスキルは杖スキルのようだが。


「ふーん、元気な炎ちゃんだこと。残念だけど、消えて欲しいな」


サナは不敵に笑っている。勝ち誇っているのだろうか?無数に設置されていた氷からそれぞれ何部も伸びて再び俺を襲うのかと思ったが、炎を襲おうとしていた。


「なぁるほどね。サナも天才剣士だな。悪いけど、俺の炎はそう易々と凍るはずがないだろ?」


俺の言う通り、襲ってくる氷を次々と燃やして溶かしていく。その度にまた炎は激しさを増して威力も向上する。


サナの鎧に激突しているこの炎があるため、サナと俺の周りは熱気に包まれた。冷気なんてもうホコリも当然だ。


「くっ。暑い……。今すぐ装備を全部、脱ぎたいぐらい」


「そうしたらサナの綺麗な丸裸が、俺や観客に丸見えになってしまいますけど」


「う、うるさい!」


サナは頬を赤くする。可愛い。


俺の勢いが完全体となった炎はついに氷を全て溶かしてサナを押していく。そのままサナはコロシアムの壁に炎に直撃されたままぶつかる。炎の勢いは、なおも止まらず。サナの体力がみるみる減っていく。


「これなら、勝てる……」


炎の勢いが止まる気配はない。サナも炎からの攻撃に踏ん張って耐えている。壁に激突したままで倒れることも許されないまま。


「はぁはぁ。もう、息ができな……い。魔法を……唱え……る、気力すら……。残って……ないの……に」


「もういいだろう。炎よ、鎮まれ」


しかし、混沌の炎は全く収まらない。サナの体力をまだ削る。どこまで削る気なのだろうか。


俺のスキルが暴走している……?とでも言うのか?このままだとサナを殺しかねない。決闘とは、殺し合いの一環でもある。しかし、俺はそれを望まない。偽善者をしているのではない。殺しは元々好きじゃないからだ。むしろ、大っっ嫌いだ。


「サナ!これは俺の意思じゃない!君を殺すつもりなんてサラサラない!サナ!炎を止められるか!?」


「む、無理……よ。もう、限界」


サナの頭が前に傾きそうになっている。まずい、サナの意識が飛びそうなことを表している。誰か、助けてくれ。俺を人殺しにしないでくれよ!


「ったく。仕方ないわねぇ……。コロシアムの決闘範囲内に外からの魔法やらスキルやら攻撃などの干渉を阻止するための結界が張られてるようだけど。私がなんとかしてあげるから、待っててね」


シーナさんはそう言って下り階段へと向かうが、俺はそんなことを知るはずもない。自分の力でスキルを操れないようじゃ、到底冒険者なんて、英雄なんて、もう、名乗れない……。


「サナーーーーーーーー!!!!!!」


俺は叫ぶ。サナが、炎を受けているにもかかわらず、ついにずり落ちたからだ。炎はそのままコロシアムの壁に激突する。しかし、壁を貫通する気配がない。


結界がなにかを張られてるのだろうか?俺の消費魔力量はかなりのものだ。スキルの暴走のせいなのだが。サナからはもう返事もない。ただ、地面に腹から倒れている。顔は横向きだ。もう、殺してしまった。人を……。しかも、この世界で最も魔王を倒すことを可能にできる冒険者を……。


「俺は……弱い。弱いし、一人じゃなにもできない。ああ……だれか、だれかスキルを……。俺を……。剣を、止めてくれ……」


涙を流しながら俺は訴える。その時、コロシアムの観客席の中の一人がニヤリと笑ったのを、誰も知らない。


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