第18話 先輩(side律)

「お前、振られたんだってな。しかも自殺されるほど嫌がられてたとか、ダサ」

「ざまぁみろ。天狗になってるからこうなるんだよ」


ぎゃははと部活のメンバーが俺のことを馬鹿にする。

うるさい。

イライラする。


「ま、相手が吉良先輩じゃ仕方ねーよな」

「軽そうだけど、こいつよりは性格良さそうだもんな」


ドンとロッカーを叩くと同級生はびっくりしていた。


「……むかつくなら、手出せよ?」

「暴力事件起こしたら、お前はもうレギュラーじゃいられねーよ」

「あ、殴られたフリでもするか?」

「お前、それ名案!」


耳障りな笑い声に眉をひそめると同級生は満足そうに笑っていた。


「こ、こらー。いじめはダメなのですよ!」


そこに現れたのはマネージャーの先輩だった。

確か学年は3年生。名前は四宮ささら。かなり小柄な人で、いつも重たい物を文句も言わずにニコニコと運んでいるのが印象的だった。


「先輩、いじめじゃないですよ」

「そうですそうです。少しお話してただけですよ。なぁ、色葉?」

「そうなのですか?なら大丈夫なのです。色葉くん、部長がお呼びなのです。一緒に行きましょう!」


四宮先輩に連れられ、俺は更衣室から出た。


「危ないところだったのです。気をつけないとダメなのですよ?荷物はわたしが取ってくるので待っててほしいのです」

「え、部長に呼ばれてるんじゃないんですか?」

「嘘なのですよ。他の1年生が教えてくれたのです。だからわたしが助けに行ったのですよ?」


とてとてと先輩が走って、更衣室に向かっていく。


かっこわるいところを見せてしまった。

でも、先輩が来てくれて本当に助かった。


「……そっかぁ。俺たち、別れたんだもんなぁ」


別れただけならまだマシだ。

酷く傷つけて、追い詰めてしまった。

命を奪うところだった。


「はい、どうぞ、なのですよ。トラブル回避のためにわたしと帰りましょう?」

「いいですけど、俺といると先輩も好奇の目で見られますよ?」

「心配ご無用なのです。わたしは色葉くんがそんなことをする人だとは思わないのです」

「……噂は間違っていないですよ。俺が恋を追い詰めたのは事実ですから」

「人間は間違える生き物なのです。大切なのは間違えた後にどう行動するかなのですよ」


ゆっくりと先輩の言葉が染み込んでくる。


「そう、ですね」

「はい、なのです」

「少し心が軽くなりました。ありがとうございます」

「いえいえ、なのですよ」


別れ道で先輩が手を振る。俺はその小さな手を捕まえた。


「家まで送っていきます」

「大丈夫なのですよ?」

「女の子に夜道をひとりで歩かせられません」

「やっぱり色葉くんは優しいのです」


にこっと笑う先輩の長いツインテールが風でふわりと揺れる。


「優しいのは俺じゃなくて、先輩のほうですよ?」

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