第17話 お弁当(side恋)

 誰かの手料理を食べたのはものすごく久しぶりだった。

 お弁当をくれると連絡が来たとき、びっくりしたけど嬉しかった。

 昔のことはわからないけれど、朝にはパンが置かれ、昼ごはん用にお金が置かれ、夜はコンビニのお弁当やおにぎりが置かれていて、それをひとりで食べるというのがどうやら我が家の“普通”のようだった。


「お弁当って言っても昨日の残りものなんだけどね」


 先輩はそう言いながらお弁当を渡してくれる。開けてみて?と促されてお弁当を開けてみるとそこにはピンクのハートが出来ていた。


「もう暑いから、悪くならないようにちらし寿司にしてみたんだ」


 他に入っているのは肉じゃがとブロッコリーとミニトマトとリンゴだった。

 肉じゃがの人参は星形にくりぬかれており、リンゴはうさぎになっている。


「ふふ。めちゃくちゃ可愛くて美味しそうです」


 想像よりもだいぶかわいらしいお弁当に私の頬は緩む。いただきますと手を合わせて、肉じゃがに手をつける。少し甘めの優しい味がした。


「美味しい……!」

「それはよかった」


 先輩は嬉しそうに笑う。


「先輩が料理をするとは思ってませんでした」

「俺も。うちさ、両親忙しくて買ったご飯ばかりだったんだ。まずくはないけど、それはやっぱり寂しくてさ、手料理に憧れたんだよ。でさ、妹に同じ思いをさせたくなくて中学から料理を始めたんだ。最初は手を切るし、米の水の分量間違えてべちゃべちゃになるし、砂糖と塩間違えたり大変だったよ」

「だから、人参が星の形なんですね」

「うん。日和、人参苦手だからどうにかして食べてもらおうと思って」

「妹さん、日和ちゃんっていうんですね。先輩、良いお兄ちゃんです」


 私はそう笑う。


「……妹を可愛がれるのは君のおかげなんだよ」

 小さく隼人は呟くが恋の耳には届いていない。昔の恋の言葉がなければ、きっと妹を好きになれなかっただろうと思う。


「……私も手料理を食べたのは久しぶりです。私も先輩の真似をして、料理をしてみようかな。お父さんもお母さんも食べてくれるかな」

「絶対食べてくれるよ」

 力強い先輩の言葉に私は嬉しくなる。

「先輩、料理を教えてくれませんか?」

「いいよ。何を作りたい?」

「肉じゃがとちらし寿司を作りたいです。とても美味しかったから」

「喜んで!」


 嬉しそうに先輩が笑う。


「またお弁当作ったら食べてくれる?」

「もちろんです!」

「もっと料理の腕、あげなくちゃなー」

「今も美味しいですよ?」

「もっと愛ちゃんに喜んでほしいから」


 ぎゅっと私は先輩に抱き締められる。

 好きだよと耳元で囁かれ、私は真っ赤になっていた。

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