第16話 彼氏(side隼人)
スマホを握っていた手が震えている。
たどたどしく、でもちゃんとまっすぐに答えてくれた恋に愛しさが募る。
やばい。
めちゃくちゃ嬉しい。
顔がにやけるのが止められない。
「おにいちゃん、なにかいいことあったの?」
「日和にだけ教えてあげる」
幼い妹に秘密話を打ち明ける。
「おにいちゃん、彼女ができたんだよ」
「すごい!おにいちゃん、かっこいい!」
「仲良くなったら連れてくるよ。日和に会わせてあげる」
「たのしみ。よかったね、おにいちゃん!」
ついつい嬉しすぎて料理を作りすぎてしまった。両親の分を差し引いても結構多い。
あ、といいことを思い付いて美紀と恋ちゃんにメッセージを送る。
“明日弁当持っていくから食べてくれる?”と。
付き合えたけど、両思いとは少し違う。
それでも良い。
精一杯の愛を捧げよう。
俺は彼女の笑顔がみたいから。
「おはよー。愛ちゃん、一緒に学校行こ?」
彼女の家は学校から少し遠いし、自分の家からは逆方向になる。でも、それは少し早起きすれば済むだけの細やかな問題でしかない。
「おはようございます、先輩」
「愛ちゃんは俺の彼女なんだから、名前で呼んで?敬語もなしね?」
「え、と、隼人先輩…?」
「“先輩”も要らないけど、ま、慣れてからでいっか」
話をしながら登校する。
いろいろな話をするけれど、家族の話は出てこなかった。
(まだ、家庭は複雑、か)
俺は“入れ替わり”になんとなく気づいていた。
だから“恋”と呼ぼうとしたが、律と彼女の両親のことを考えるとできなくなった。
本人もたぶん忘れてしまっている。それなら触れないのが良いだろうと包帯を巻かれ横たわる彼女の姿を思い出しながら、自分に言い聞かす。
「また、お昼休みに!お弁当自信作だから期待してて?」
そうやって俺は恋と別れる。
「隼人、舞い上がってるね?どうせ嬉しすぎてご飯作りすぎちゃったんでしょ?」
「美紀にはバレバレだね。仰るとおりデス」
「ま、いいけどね。隼人の料理美味しいし。料理できて、イケメンで、実は一途で、性格もよくて、勉強もできるって、相変わらず憎らしいくらいにハイスペックなんだから」
「いや、美紀の方が上じゃん。俺、美紀にテストの順位勝ったことないし。毎回2位なんですけど?」
「努力が足りないのよ」
「いやいや、オール満点取られたらかなわないし」
「あんたも満点とればいいじゃない?」
「満点とっても美紀が“神楽”だから“吉良”より先に書かれるじゃんか」
「あはは。名前は仕方ないじゃない。ほら、私に渡したならさっさと行ってあげて?
美紀に見送られて、1年生の教室に向かう。
「愛ちゃん、一緒にご飯食べよ!」
恋人1年生。
今日から恋をはじめます。
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