第14話 姉妹(side美紀)

『で、なんか進展はあったの?キスくらいしてきたんでしょうね?』


 電話の向こうで隼人が激しくむせている。


『美紀さん、直球すぎだって』

『それくらい強引に行かなきゃ、本当に欲しいものは手に入らないわよ?“強奪”するんでしょ?』

『んー、忘れちゃってるから“強奪”になるのかな?』

『同じ事を繰り返したくないのなら、アプローチは変えないと。私はこれでも心配してるんだからね』


 幼なじみだからというのもある。

 けれど、他にも理由はある。


「美紀ー。起きてる?」

「お姉ちゃん、今、電話中だから。いつもノックしてって言ってるじゃない!」

「ごめんって、美紀。明日のデートの服一緒に選んで欲しくて!」

「また別の男?とっかえひっかえしすぎでしょ?」

『美紀、俺はいいからお姉さんの服選ぶの手伝ってあげて』

『ごめんね。助かる』

『ううん。こっちこそありがと』


 電話を切り、はぁとため息をつく。

 うちの両親は離婚している。けれど、私が成人するまでは別居をする気はないらしい。家庭内別居をしておいて、世間体を気にしているのだ。


 だから姉とは苗字が違う。

 姉の名前は高里美奈たかさとみな

 なんの因果か隼人のことを弄んだ、あの家庭教師だった。

 隼人はそのことを知らない。

 知らなくて良い。

 知ってもただ傷つくだけだから。


「今度は何歳年下?」

「五歳だよ」

「未成年じゃん」

「愛があれば大丈夫!」

「本当に年下好きだよね」

「なにもわからない、何色にも染まっていない子を私色に染めるのが好きなのよ。どんどん私に夢中になっていくの、可愛いじゃない?」

「で、落ちたら飽きちゃうんでしょ。そのうち刺されるよ?」

「大丈夫大丈夫~。ね、ね、こっちとそっちどっちが可愛いかな?」


 愛ってなんだろう。

 両親も姉もどこかおかしい。


「美紀は年上が好きだよね~」

「ううん。好きになった人が年上だっただけ。年齢は気にしてないよ。一緒にいて、安心する人がいいの」

「えー、恋はちょっとリスキーなほうが楽しいのに」


 私にはお姉ちゃんと両親の気持ちが理解できない。

 でも、それで良いと思う。

 誰かを傷つける恋なんかしたくない。


「ほら、こっちにしなよ」

「やっぱりこっちだよね!さすが、美紀!」


 黙っていれば姉は清楚なお嬢様に見える。

 一度は憧れるいかにも“女の子”という感じ。

 だから、私は姉に似たくなくて髪を切った。

 ショートカットにしている理由がそれだとはなんとも皮肉すぎる。


 隼人には幸せになってほしい。

 きっと彼女は彼に似合うだろう。

 幸せになれると思うから。

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