二章 吉良隼人
第13話 傷痕(side恋)
私の手首には大きな傷痕が残っている。
何をしようとしたのか全く覚えていないけれど、なんとなく想像はついた。
私は記憶を失っていた。
見る人全てが知らない人だった。
自分が誰かということさえ、わからなかった。
私の名前は天羽愛というらしい。
「愛。今日のノート持ってきたよ」
毎日通ってくれる彼は色葉律くんというらしい。
私とは幼馴染で、とても仲が良かったらしい。中性的で、ものすごく整った顔立ちをしている。1年生でありながら野球部のレギュラーで、厳しい練習を終えた後に毎日私に会いに来てくれている。
大変だからいいよと断っても大丈夫だと断られてしまった。
他に来てくれるのは内海絵夢ちゃん。高校からの友達で、同じ吹奏楽部に所属しているらしい。ふわふわでちょっとくせのある茶色の髪が似合っていて可愛い。私の髪は真っ黒でストレートだからちょっと羨ましい。
あとは二年生の神楽美紀先輩と吉良隼人先輩。ショートカットの似合う美人さんと少し長めの髪が似合うかっこいい人だ。
「退院決まりそう?」
「はい。来週には退院できそうです。あの、私は先輩と仲良かったんですか?」
「仲良かったよ。どうしたの?」
「律くんや絵夢ちゃんはわかるんですけど、先輩はどうしてこんなに頻繁に来てくれるんだろうって思ったんです」
「それはね、俺が愛ちゃんのことが好きだからだよ」
予想もしなかった先輩の言葉に私は驚いてぱちぱちと瞬きをした。
「ま、振られたんだけどね」
「え?私、先輩を振ったんですか?こんなに優しくてかっこいい先輩を?」
「ふふ、驚きすぎだよ」
「まぁ、隼人は軽いから」
「ちょっと美紀。誤解を招く言い方は止めてってば」
「てっきりお二人が付き合っているのかと思ってました」
「隼人はないわ」
「俺も美紀はちょっとなー」
否定するふたりに私は思わず笑っていた。
「隼人はいい奴よ。軽かったのは昔のこと。天羽さんに一途だったのよ。今の隼人ならオススメできる」
思わぬフォローに隼人はびっくりしていた。
「少なくとも、あなたを泣かせることは絶対しないしね」
「ちょっと、美紀さん?急に誉められたらびっくりするんだけど!?」
「考えてみてあげて?」
ふたりの会話に思わず笑みが溢れる。
「隼人は私の彼氏の次に良い男よ?」
神楽先輩が帰った後、お互いに照れてしまいうまく話が出来なかった。
「美紀じゃないけどさ、俺は愛ちゃんを笑わせる自信あるよ?だから考えてみてもらえると嬉しいな。今が大変だからこそ、支えになりたい」
「私はなぜ先輩を振ったんですか?」
「愛ちゃんに好きな人がいたからだよ。でも、無理矢理にでも奪えば良かったなって後悔してる」
「好きな人ってもしかしてーー」
「律くんだよ。だから彼には気をつけて」
コンコンとドアがノックされる。
返事をしようとした私を先輩がぎゅっと抱き締め、柔らかいものが唇に触れた。
「ーー好きだよ、愛ちゃん」
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