第11話 恋人(side恋)
「愛、おはよ」
「律、おはよ」
あの告白から日常が変わった。律は私のことを全く“恋”と呼ばなくなった。優しく甘く“愛”と呼ぶ。
私たちの今の関係は“恋人”。
恋人の律はとても優しい。
「おはよ、恋ちゃん」
先輩だけが私を“恋”と呼ぶ。先輩は私が律と付き合いだしてから口説いてくることはなくなったが、頑なに“恋”と呼ぶことはやめなかった。それがちくちくと胸を痛くさせる。
「んー、なんかさ、あもちゃん変わった?」
「変わったって、何が?」
「雰囲気、かな。何か辛そう。悲しそうな目で色葉くんを見てる気がするよ」
「そんなことないよ?」
「ならいいんだ」
えむちゃんの鋭い指摘に私は笑うしかなかった。
今の関係が幸せなんだと自分に言い聞かせる。だってこれは私が望んだことじゃないか、と。
部活が終わり、えむちゃんと別れる。
野球部に寄って、律と合流する。律は一年生だけどレギュラー入りが決まったらしく、先輩たちと一緒に練習していた。
「色葉、迎えに来てるぞ。イケメンで頭良くて野球部レギュラーで、かわいい彼女がいるなんてどんなチートだよ」
「先輩だってイケメンじゃないですか」
「俺らの年にはな、もっと上がいるんだよ。吹部の吉良隼人って聞いたことないか?」
「彼女の先輩ですね」
「気をつけろよー?吉良は口が上手いから弱いとこ見つかったら盗られるぞ?」
「はい。気をつけます」
「んじゃ、お疲れ」
「お疲れ様です」
律は愛の元に歩いてくる。
「……あいつ1年なのにもう帰るんだ?」
「ちょっと速い球が投げれるからってムカつく」
同級生たちは陰口を叩く。
「陰口叩く時間を練習にあてれば?そんなんだからうまくならないんだよ」
律は正面から言い返す。誰も言い返せず、睨みつけている。
「律!今の言い方は良くないよ!」
心配した私は律に駆け寄った。
「俺、なんか悪いことした?」
「みんなが整備とか片付けしてくれてるんだから部活が出来るんでしょ?あんな言い方はないよ」
「愛がそう言うなら謝ってくる。ちょっと待ってて」
カバンを私に預け、律は戻っていく。
が、遠目に同級生が律に手をあげるのが見え、私は慌てて駆け寄った。私と目があった彼らは逃げていく。
「律、大丈夫?」
「痛い。あ、口切れてる」
「保健室まだ空いてるかな?保健室行こ?」
「うん」
ふたりで校舎に歩いていく。
保健室にはまだ先生がいて、律を診てくれた。口をゆすぐと血が混じる。
「ちょっと氷貰ってくるから待ってて」と先生が席を外す。
「ーーー愛」
名前を呼ぶと同時に唇が塞がれた。
律との初めてのキスは少しだけ血の味がした。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます