第10話 幼なじみ(side隼人)

 血が滲むほどに拳を強く握りしめた。

 目の前で好きな人が他の男を選んだ。これだけなら悔しいだけで済むが、この場合はそれだけでは済まない。自分を殺して生きていく選択をした彼女をどうにかして助けたい。


「……どこから手をつけようかな?」


 あまり自慢にはならないかもしれないが、コミュニケーション能力の高さには自信がある。

 律側から攻めるか、恋側から攻めるか。

 極論を言ってしまえば、恋が自分らしく生きていければ俺は好かれなくても良い。


 くるりと俺は恋たちとは逆を向く。

 まずは情報収集からだ。

 とびきりの笑顔で俺は恋の家のチャイムを押した。



 ☆


「ーーとんだ重役出勤ね」

「美紀、おはよ~」

「おはようって、もうお昼休みよ?」

「あ、その卵焼きうまそう。一切れちょーだい?」

「もう、隼人ってば自由なんだから」


 美紀は呆れながらも俺に卵焼きをわけてくれる。


「デートでもしてたの?」

「あー、そういうのはもうやめたよ」

「やめた?女たらしのあんたが?」

「本当だよ?連絡先消したもん。スマホ見る?」

「あ、本当だ。って、友達少なすぎない?」

「それは俺も思ったから、言わないで」

「まー、あれだけしてたら同性には嫌われるでしょうね」


 クスクスと笑う美紀に俺は頬を膨らませる。


「好きな人できたから、さ。正確には再会したんだけど。結構、前途多難」

「隼人が苦戦するなんてね」

「本気の恋愛なんて久しぶりだ」

「恋愛経験豊富じゃないの?」

「全ー然。トラウマだらけだよ。てか、俺の失恋知ってるじゃん」


 切なそうな表情の俺に美紀はふふと笑う。


「笑うなよ、美紀」

「いや、失恋から立ち直ったんだなぁって。今までは失った温もりを埋めるみたいに女の子をとっかえひっかえしてたもんね」

「もー、美紀にはなんでもかんでもお見通しだな」

「長い付き合いだからね」

 ほら、昼休み終わるわよと美紀が急かす。


 美紀はショートカットの美人だ。

 明るくて優しくて男女共に人気がある。

 俺が手を出さなかったのは姉弟のように育ったからだった。いつでも美紀は姉のように俺を守ってきたし、お互いにお互いを大切に思っている。


「悩んだら相談しなさいよ?」

「俺と仲良くしてて彼氏は大丈夫なの?」

「そんな心の狭い男と付き合ってないよ」

「幸せそうだなー。羨ましい」

「相手は天羽さんでしょ?」

「なんでバレてるの?」

「バレないと思ってたの?」

「そんなに俺、わかりやすかった?」

「ううん。たぶん私だから気づいただけ」

 その言葉にすごいと俺は笑う。


「隼人は良い奴なんだから、もっと自信持ちなよ。彼氏の次にイケメンだし?」

「おい、ノロケんな」

「頑張ってノロケ話聞かせてよ?」

「絶対聞かせてやるし」

「待ってるね」

 美紀は笑う。


「自分の幸せもちゃんと考えるんだよ?」



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