第9話 家族(side恋)
「おはよ!ね、一緒に学校行こ?」
家の前にはにこにこと笑う先輩がいた。
突然のことに驚いていると、ぐいと先輩が私の手を引いた。
「愛は俺と行くんで」
「恋ちゃん、俺と行こ?」
「外で気軽に“恋”と呼ばないでくれます?秘密をばらさないでください」
「どうしてそんなに頑なに隠すのさ?俺はむしろばらして、戻してあげたいよ」
「ーー何も知らない癖に」
律はチッと舌打ちをし、先輩を睨みつけていた。
「愛、お弁当忘れてる」
「あ、本当だ。ありがとう、お母さん」
ぎゅうと母親は恋を抱き締める。
「ねぇ、いつになったら恋は帰ってくるのかしら?」
「恋は入院してるんだよ」
「そうだったわね。じゃあ、愛が帰ってきたら一緒にお見舞いに行きましょう?」
「うん。じゃあ今日は早めに帰ってくるね」
「おばちゃん、もう学校行くね」
「律くん、愛をよろしくね」
「はい!」
笑顔で律は返事をする。にこにこと笑う母は先輩の存在をスルーした。
「そう簡単にいかない理由わかりました?おばちゃんは愛の死をきっかけに心を病み、その記憶を失いました。おばちゃんの中では恋も愛も生きていて、恋は入院していることになっているんです。一度、おじさんが恋が死んだとおばさんに告げたらどうなったと思います?おばさんは自殺を図ったんです」
「入れ替わりだけじゃなくて、お母さんの中ではふたりとも生きてることになってるんだね」
「……私は“愛”であり“恋”なんです。だからあまり触れないでください。お母さんを守りたいんです。私がうまくやれば誰も傷つかないんです」
「誰も傷つかない?それは違う。恋ちゃんが傷ついているじゃないか。歪な家族ごっこを続けてどうするの?ずっとずっと恋ちゃんが苦しんで、壊れてしまうだけじゃないか」
「恋がそれをやめたいと望むなら、俺も力を貸します。けど、実際はどうなんですか?」
声を荒げた律の胸ぐらを先輩が掴む。
「お前も“恋”を“愛”にしているひとりだろうが!?恋の好意を利用するんじゃねぇよ」
ぐいっと強く先輩は私の手を引き歩き出す。
「俺がどうにかする。家族を傷つけない方法を考える。恋はこれ以上、“愛”にならなくていい。俺はちゃんと恋を“恋”として見るから」
ギシギシと心が軋む音がする。
私は律が好きだ。
でも、律が好きなのは“愛”だ。
私と愛は似ている。
だから“愛”でいれば、律は愛してくれる。
私が“愛”でいれば律とも家族ともうまくいく。
「ーー律。私もっと頑張って“愛”になるから、好きになって」
たぶん私は愚かな決断をしている。
先輩の手を振り払い、律に抱きついた。
「ーー私は律が好きだよ」
そっと頬に手が触れる。
「ーー俺も愛が好きだ」
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