第7話 告白(side隼人)
「ーー私には好きな人がいるんです。だからごめんなさい」
あっさりと俺は振られてしまった。
お試しでいいからと押してみようとも思ったが、たぶん彼女にはそういうのは通じない気がして、そっかとだけ頷いた。
「好きな人って一緒に学校に来てる人?」
「はい。振られてはいるんですけど、諦めきれなくて」
寂しそうに笑う恋にえ?と俺は聞き返す。てっきり両片思いかとばかり思っていた。
「律は愛のことが好きなんです」
「そう言われたの?」
「いいえ。でも、わかるんです。律は私が“愛”でいる時間はすごく優しい。けど、“恋”のときは空気が違うんです。律は今でも私たちが入れ替わったことを恨んでいるんです。愛情と憎しみの入り混ざった複雑な視線で律は私を見ているんです」
辛そうに話す恋の腕をぐいと引き寄せて抱き締める。ぽろぽろと恋は涙を流していた。
「わ、私、律の前でしか“恋”でいられないのに、律は“恋”より“愛”でいることを望んでて、私の居場所は律の隣にしかないのに、そこにはずぅっと“愛”がいて、“私”が“私”でいられなくて、辛くて悲しくて、どうしていいかわからなくて、でも、好きで、好きでーー」
俺はそっと彼女にキスをする。
キスは涙で少ししょっぱい味がした。
「俺にしなよ。律じゃなくて、さ。俺はちゃんと“恋”をみてるから」
「ーー人の家の前で何をしてるんですか?」
ぐいと律が俺から恋を引き剥がす。
「恋の話、聞こえてただろ?」
「先輩には関係ないと思いますが?」
「関係あるよ。俺は恋が好きだから」
「女たらしと有名な先輩が?」
「それを言われたら痛いけど、俺は誰かと誰かを比べるようなことはしてないよ」
「嫌味ですか?」
「嫌味に聞こえるのなら、思い当たるふしがあるんだろうね」
静かな火花が二人の間に見えるようだ。
「恋ちゃん、俺を利用していいよ。寂しいときとか辛いときとか、いつでも呼んで?」
律と睨みあっても何にもならない。じゃあねと俺は退散する。
俺も大概拗らせている自覚はあるけれど、律と恋はそれ以上に拗らせているようだ。
睨む律の目に感じたのは愛情というよりは独占欲だった。
「おにーちゃん、おかえりなさい」
「ただいま、
「おわったよ~」
「おー、えらい、えらい」
俺はそう妹の頭を撫でる。
「おにいちゃん、おなかすいた」
「すぐ作るよ。今日は日和が好きなハンバーグにしようかな」
「やったぁ!おにいちゃんのハンバーグだいすき!」
「日和、お手伝いしてくれる?」
「うん!」
「ちょっと待っててね」
兄妹仲良く食事を作り、宿題を見て、お風呂に入れて、寝かしつける。
スマホを見るとたくさんの女の子たちから連絡が来ている。
いつもなら嬉々として返信するのに、今日はそれが煩わしい。
俺がたくさんの女の子といるのは寂しいからだ。
誰かといないと耐えられない。
本気で愛した人の傷をまだ引きずっている。
あ。
スマホを弄る手が止まる。
目に止まったのは恋からのメッセージだ。
“今日は泣いてごめんなさい”
返信をし、電話帳を開き女の子たちの連絡先を消していく。
「俺、友達少なかったんだなぁ」
すっかり連絡先の少なくなった自分の軽さに思わず笑ってしまう。
怖がらずに向き合おう。
俺は恋ちゃんを愛したいし、愛されたい。
心の底からそう思った。
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