第6話

「ちょっといいかしら、成瀬くん」


俺が告白した日の翌日の昼休み、友達と弁当を食べていたら月城さんがいきなり話かけてきた。

何の用だろうか。月城さんから話かけてくれるのは嬉しいけど、少しはタイミングというものを考えてほしい。こんな人が集まっている場所で月城さんが俺なんかと話すと間違いなく騒ぎになる。

ちなみにさっきまで遥もいたが飲み物を忘れたとかで買いに行ったので、今はいない。


「ちょ、成瀬! いつの間に月城さんと仲良くなってたんだよ!」


特に面倒臭いのは机を向き合わせて正面に座っている桐生だ。

桐生はとにかく美人な女性が好きだ。部活はサッカー部なのだが、その入部理由は非常に分かりやすい。スポーツが出来たら女の子にモテるからだ。

それだけでエースにまでなったのは凄いが。

まぁ、結局モテなかったけど。仮にモテていたら俺と昼休みを過ごしていないだろう。


「昨日から」


「何で紹介してくれないんだよ!?」


「理由がないからな」


紹介したくない理由ならあるが。

好きな人を女好きになんか紹介する訳がない。


「何で月城さんが成瀬に……」


「もしかして付き合ってるとか?」


「さすがにそれはないでしょ。だって月城さん、川内先輩の告白を断ったんだよ?」


桐生だけでなく周りのクラスメイトもザワザワし始めた。

これは当然の反応と言える。何せ月城さんはモテる。そのあまりに美しい容姿に学外の生徒からも告白されたという噂があるほどだ。

その上月城さんがクラスで必要最低限以外の会話をしているところを誰も見た事がない。

つまり今の状況はクラスメイト達にとって異常事態なのだ。騒ぎたくなる気持ちも分かる。

俺も自分と関係がなかったら同じようなリアクションを取っているだろう。


ついでだが川内先輩というのは野球部のエースだ。桐生と違ってよくモテる。

同じエースなのにこの違いは何なのだろうか。顔にそれほどの差があるとは思えないが。やっぱり性格?


「?」


騒ぎの元凶である月城さんは皆が何を騒いでいるのか理解できず不思議そうにしている。

いくら周りに興味がない――より正確に言うなら遥以外に興味がないとはいえ、自分が有名人だという認識だけは持ってほしい。


仕方ないな。とりあえず下手な事を喋られてこれ以上騒ぎになっても面倒臭い。移動するか。

俺は残り少ない弁当を急いで終わらせる。


「何か話があるなら場所を変えよう」


「何で? 別にここで良いわよ」


「じゃあ、移動しようか」


有無を言わせず立ち上がって教室の外に向かう。ここでの話し合いは無駄だ。むしろ状況が悪化する可能性がある。

遥が戻ってくる前に教室から出たい。


「人前だと出来ない話でもするか。怪しいな……」


桐生が訝しんでいるが無視する。こいつとの話は更に無駄だ。

どうせ可愛い女の子でも見付けたら一瞬で忘れる。


まだ他のクラスメイトも話題にしているようだが、こっちは問題だ。今後の学園生活にも影響が出る可能性がある。

……まぁ、後でいいだろう。


「で、何か用?」


廊下に出たところで質問する。

もちろん廊下にも他の生徒はいるが教室みたいに注目される事はない。

遥が飲み物を買いに行ったと思われる自販機とは反対の方向に歩き出す。


「間宮さんを紹介してもらおうと思って。別にデートが終わってから、みたいな約束はしてないでしょ」


「それはそうだけど。でも、だったら何で遥がいなくなってから来たの?」


「だって本人がいたら恥ずかしいじゃない」


俺には隠す必要がなくなったからか完璧に開き直っている。

気持ちは分かる。俺も昨日までは同じ気持ちだったから。


「それでどうやって紹介しろと? 約束はしたしちゃんと紹介するけど、今の状態で会ってもマトモに会話出来るとは思えないけど」


「それは……確かにそうかも」


どうやら特に考えてなかったらしい。

月城さんは天然みたいだ。普段の様子からしてクラスメイト達には想像も出来ないだろう。

そんな月城さんも可愛い。

俺しか知らない月城さんの姿に優越感みたいな物を覚える。


「でも大丈夫じゃない? 成瀬くんも私と普通に話せているし、私も話してみたら意外と普通に喋れるかも」


「それはどうだろう……」


俺が普通に話せているのは月城さんの性格によるところが大きい。

そして遥は初対面の相手といきなりフランクに話せるほどコミニュケーション能力は高くない。ある程度仲良くなれば別だが、緊張していてはそこまで行くのも難しい。

紹介したところで上手く話せず俺が仲介している姿が目に浮かぶ。


「じゃあ、どうすれば良いの!? 間宮さんと仲良くなれないのなら、成瀬くんとデートする意味がないじゃない!」


そうなんだよな……。

この問題をどうにかしないと月城さんとの接点がなくなってしまう。現状月城さんにとって俺の価値はそれしかない。


「そうだな……やっぱりちょっとずつ慣れるしかないんじゃないか」


「そういう常識的なのはいいから! 一気に間宮さんと仲良くなれる方法ないの!?」


この女、ふざけんじゃねぇぞ。そんなの緊張しなかったらいいだけの話だ。

それが出来ないから苦労しているのは分かるが、俺に丸投げするな。

大体、仮にそんな方法があったとしても俺に教えるメリットはない。


「一番の効率が良いのは俺と仲良くする事だな。それなら自然な流れで遥とも友達になれる」


「そうだよね〜。だから私もそうしてる訳だし」


「…………」


理解しているし自分でも言った事だが、それでも月城さん本人の口から言われるとショックだ。

こうなったら週末のデートで少しでも評価を上げないといけない。


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