第5話
「そろそろ寝るか」
そう呟いてから時計を見る。
まだ10時過ぎか。寝るにはまだ早い。
とはいえ別にする事もないしな。風呂にも入ったし、宿題も終わった。
今日は色々あって(本当に色々あって)疲れたし、たまには早め目に寝るのもいいだろう。
そう決めるとゲームをセーブしてから電源を切る。
「ん?」
その時不意にスマホから通知音が鳴った。
LINEか。でも、この時間に誰だ?
俺はゲーム機を横に置いてスマホを取る。
「なっ!」
画面に出ていた月城楓という名前を見て思わず声が漏れる。
月城さんからの初LINE。しかも交換した当日の夜。
これは否が応でもテンションが上がる……はずなのに何故か嫌な予感がする。
とりあえず無視する訳にもいかないので画面を開いた。
『ちょっとお願いしたいこと事があるのだけどいい?』
最後に知らないアニメキャラのスタンプがある。
可愛い女の子だ。どことなく遥に似ているような気がする。
月城さんの推しキャラなのだろうか。後で調べてみよう。
『勿論いいよ。俺に出来ることならだけど』
『大丈夫。むしろ成瀬くんにしか出来ないことだから』
返信して5秒もしない内にメッセージが返ってきた。
俺にしか出来ないこと?
予感が確信に変わる。これは間違いなく禄な事ではない。
警戒しつつ更に返信する。
『遥の盗撮写真を送れ、とかじゃないよね?』
『何で分かったの!?』
適当に書いただけなのだが、どうやら正解したらしい。あまり嬉しくない。
『別にお風呂に入っているところを撮って、とか言う訳じゃないのよ! ちょっと学校では見られない普段着、例えば可愛らしいパジャマ姿を撮るだけでいいの!』
何でそんな事が俺に出来ると思ったのだろう。
普通なら皆自分の家でのんびりしている時間帯。パジャマ姿を撮るだなんて同じ家に住んでいる家族でもないと不可能だ。
……まぁ、出来るけど。今日は皐月の部屋に泊まっているし。
何なら1時間ぐらいまではこの部屋で一緒にゲームをしていた。
ただその事実を月城さんに伝える必要はない。
『この時間は遥も部屋でのんびりしているだろうし、さすがに無理かな』
『成瀬くんと間宮さんって家が隣同士なんでしょ? 適当に理由つけて部屋に行くこと出来ない?』
何で知っているんだよ、ストーカーか!
『別に一方的に要求しようっていうつもりはないわよ。写真を撮ってきてくれたら、それに見合う報酬を約束します』
思わず生唾を飲み込む。
遥のパジャマ姿なんて見慣れていて俺にとっては大した価値はない。だが月城さんには違う。
好きな人の無防備な姿は誰でも見たいに決まっている。俺も月城さんのパジャマ姿が見たい。
それに見合う価値となると計り知れない。
『具体的には私のパジャマ姿です』
ぐっ……!
確かに唆られる。それは非常に魅力的な報酬だ。
大抵の事なら二つ返事でOKしたに違いない。
だが今回はそうはいかない。盗撮した上でその写真を他の誰かにやった、なんてのは誰が考えても最低な行為だ。
そんな事がバレたら遥との仲にも影響しかねない。
『月城さんのパジャマ姿は喉から手が出るほど見たいけど、やっぱり要求の難易度が高いかな。いくら幼馴染とはいえ、年頃の女の子の部屋に行くのは難しい。それに親だっているし、下手な事は出来ない』
我ながら凄いな。
最初の月城さんのパジャマ姿を見たい以外、完全な嘘で構成されている。
今、両親は家にいない。俺の両親は仕事が長引いて帰ってきてないし、遥の両親は結婚記念日ということで旅行中だ。だから今日遥は皐月の部屋に泊まる事になった。
というか、それがなくても遥の部屋に行くのなんて難しくない。
『なるほど、成瀬くんはこう言いたいのね? パジャマでは物足りない。もっと過激な写真を寄越せ、と』
『別にそんな意図はないから!』
否定したけど、そういう意図がなかったわけではない。
過激な写真は見たい。男なら当然の事だ。
例えば下着をチラッと見せるだけでも交渉は月城さんの有利に進むだろう。だが最初からスケベ心を出すのは恥ずかしい。
『親にバレたら言い訳できないってだけ』
『それは成瀬くんの言う通りね。私が親でも成瀬くんみたいな変態が夜中に可愛い娘に会いに来たら心配になるもの』
『盗撮写真を要求する人に変態とか言われたくないな』
反射的にツッコんでしまった。
もう遠慮とかするだけ無駄なような気がしてきた。
『でも、その変態が好きなんでしょ?』
実際、向こうも気にしている様子はない。どちらかと言うと楽しげだ。
それにしても今日初めてマトモに会話したとは思えないほど気が合う。一年間、緊張して声がかけられなかったのが嘘みたいだ。
月城さんも遥と付き合うなんて無理だから諦めて、俺と付き合えばいいと思う。絶対楽しいのに。
『少し違う。俺は月城さんの事が好きなんじゃなくて、大好きなんだ』
『よくそんな恥ずかしい事を言えるね』
『自分でもビックリしてる』
本当、よくこんな葉の浮くようなセリフが言える。正確にはLINEだから言ってないけど、そこはどうでもいい。恐らく月城さん本人が目の前にいても同じように口に出せる。
『まぁ、確かにいきなりだったわね』
『分かってくれた?』
『ええ、だから別に今日じゃなくても良いわ。撮れたら私に写真を送ってね』
写真自体を諦めるという選択肢はないらしい。
それは別にいい。月城さんの性格からして予想できたことだ。俺も月城さんのパジャマ姿を諦めたくない。
問題はどうやって遥をパジャマ姿を撮るか。撮れない場合はどうやって月城さんを誤魔化すか。
考えてもすぐに思い付く気がしない。特に後者は不可能な気がする。
……仕方ないな。こういう時の選択肢は一つしかない。保留だ。
『分かった。チャンスがあったら撮ってくる。その時は月城さんもちゃんと約束を守ってもらうから』
『当然、約束は守ります。下着姿はさすがに恥ずかしいですけど、パンチラぐらいまでなら覚悟していますよ』
最後まで煽ってくるとは。
さて、どうしたものか。色々な意味で悩むな。
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