第4話
冷静に現在の状況について考えてみる。
ソファーの上でほとんど抱き合うような距離の兄妹。しかも二人とも家だからということで若干制服を着崩している。
うん、アレだな。アニメやラノベとかでよく見るヤツだ。
勘違いで色々面倒臭い事になるパターン。
だがこれは現実だ。そんなテンプレ展開はそう簡単に起きない。
「あ、遥ちゃん。こんにちは」
「うん、こんにちは」
二人は何事もなかったように普通に挨拶する。
当たり前だ。俺と皐月は血の繋がった兄妹。
仮に裸で抱き合ってようが(どんな状況だ)、そこに性的な意味は存在しない。リアルの兄妹なんてそんなモノだ。
実の兄妹で恋愛なんて、それこそ空想の中だけだろう。もしくは文化圏が違うかだ。
それは遥もちゃんと理解している。
「駄目だよ、皐月ちゃん。いくらブラコンだからって実のお兄ちゃんを襲ったりしたら」
あれ、理解してるよな?
予想と反応が違うんだが。
「え、私!? 襲うならシスコンのお兄ちゃんの方じゃないの!?」
「どう見てもその体勢は皐月ちゃんが襲っているようにしか見えないよ」
俺が襲う可能性についても否定しろ。体勢によっては俺を疑うって事じゃないか。
別にシスコンは否定しないが、皐月を襲ったりする事はない。
「冗談冗談。そうじゃない事は分かってるよ」
皐月の反応が面白かったのか可笑しそうに笑う。
普段は遥の方がからかわれているので、仕返しが出来て楽しいのもかもしれない。
それにしてもからかわれている妹も可愛い。
「もう遥ちゃんったら。そんな冗談を言うなんて思わなかったよ」
「たまにはね。で、本当は何してたの?」
聞きつつ勝手知ったる家と言うことで、俺と同じようにまずは冷蔵庫に向かう遥。
遥の家は隣で普段から俺の家にも来ている。だからもう自分の家のような感覚なのだろう。
俺達の両親は仲が良く、遥とは生まれた時からの付き合いだ。
「お兄ちゃんが今度デートするんだって。知らない女と」
おい、妹。言い方に棘があるぞ。
「え、デート……? 響也くんが皐月ちゃん以外と……?」
驚き過ぎて冷蔵庫を中を探っている状態で動きが固まる。
遥も皐月と同じような事を。二人揃って俺を何だと思っているんだ。
俺だって高校二年、デートぐらいしたっておかしくない年齢だぞ。
「イタっ……」
扉が閉まる時に頭にぶつかったみたいだ。
こういうドジなところも可愛いと思う。
「……もしかして月城楓さん?」
「そうだけど」
何で遥の口から月城さんの名前が?
俺が月城さんを好きなのは誰にも――それこそ遥にも言っていないのに。
……そういや、さっき皐月も月城さんを知っているような事を口走っていたような。
「……もしかしてバレてた?」
「うん、確信はなかったけどね。響也くん、よく月城さんの方を見ていたから」
うわっ、マジか!
ずっとバレてないと思っていたのに。これは恥ずかしすぎる。
穴があったら入りたい気分だ。
「……ちなみにいつから?」
「えーと……去年の5月ぐらいかな」
すぐじゃねぇか!
俺が月城さんを好きになったのが高校の入学式だから一ヶ月ぐらいでバレた事になる。
早すぎる。俺ってそんなに分かりやすいキャラだったのか……。
「お兄ちゃんはかなり分かりやすいよ」
皐月が心を見透かしたように発言してくる。
そこまで分かりやすいのか。おかしいな。学校のクラスメイトには「成瀬は何を考えているのかよく分からない」って言われるのに。
「まぁ、私達ぐらいかもしれないけどね」
遥まで!
……でも、そうか。確かに皐月と遥とはずっと一緒にいるからな。
俺の考えぐらい読めても不思議じゃないか。俺も二人の考えは読めるし。
……たまに分からない時もあるけど。
「それで、月城さんとは付き合う事になったの……?」
そう質問した遥の声はどこか震えている。
これは当然の疑問だろう。何しろデートするんだから。
でも、なぁ……。なんて説明したらいいんだろう?
というか、したくない。遥をダシにデートする事に成功したなんて。
かと言って適当に嘘をついてもすぐにバレるだろうし。取れる選択肢は一つしかない。
元々、皐月にしようとしてた事と一緒だ。真実を言いつつ不都合な所で喋らなければいい。
……いや、無理だ。皐月ならともかく遥にはこの方法は取れない。
皐月と月城さんは面識がないし、まず会う事もない。だから適当な事を言ってもバレづらいが遥は違う。
遥は月城さんとクラスメイト。だから本人に確認でもされたら、一発でアウトだ。
とりあえずアイデアがまとまらないので見切り発車で会話を進める。
「別にそういう訳ではない」
「じゃあ、何でデートするの?」
何で……か。そこが一番説明の難しいところだ。
どう誤魔化したものか。
……待てよ。違う、そうじゃない。中途半端に誤魔化そうとするから駄目なんだ。この方法では俺の望む結果は得られない。
後、皐月。関係ないけど会話が長くなって疲れてきたからって、もたれるのはやめろ。普通に隣に座れ。
「それは秘密だ」
「……秘密?」
「ああ。相手がいくら妹や幼馴染だからってプライベートな事まで全て話す必要はない」
開き直る。こう言えば皐月も遥も無理に追求してきたりはしないはずだ。
「それは確かにお兄ちゃんの言う通りだよね。私だってお兄ちゃんに一つや二つ隠してる事あるし」
「……皐月ちゃん?」
アッサリと俺の言い分を受け入れた皐月を見て不思議そうに首を傾げる遥。
俺も同じ気分だ。思った通りとはいえ、からかいの一つもないなんて。皐月らしくない。
「そうだ、遥ちゃん」
「何?」
「今度の日曜日、予定がなくなったから私とデートしよ?」
そう言った皐月は怪しげな笑みを浮かべていた。
……嫌な予感しかしない。もしかして選択肢を間違えたか?
それから遥が了承すると、皐月は何事もなかったかのように俺から離れて読書を再開した。
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