第3話
「お兄ちゃん、ニヤニヤして気持ち悪い」
我が可愛い妹――成瀬皐月は家に帰ってきた兄を罵倒しながら出迎えた。
しかもリビングのソファーに座って漫画(描写の激しいBL)を読みながら。一瞬だけこっちを向いたが、すぐに視線を漫画に戻した。
相変わらず性格の悪い奴だ。もう少しどうにかならないのだろうか。
こんな調子では恋人なんていつまで経っても出来ないぞ。兄として少し心配になってしまう。
まぁ、皐月は恋人なんて作るつもりはないだろうが。
「何か良いことでもあったの?」
「ちょっとな」
適当に返事しつつ冷蔵庫に向かう。
げ、コーラきれてるな。仕方ない。
俺は中からペットボトルを取り出してお茶をコップに移す。
「ソシャゲの十連で最高レアを3枚抜きしたとか?」
「それは確かに最高にテンションが上がるが違う」
どちらかと言うとガチャは爆死したし。
欲しいキャラのために石を貯めて100連以上したのに外れてしまった。すり抜けで何体か当たったけど、持っているキャラかいらないのしか来なかった。
ピックアップ仕事しろ!
ショックのあまり課金を考えたほどだ。手持ちが寂しくて出来なかったけど。
「実は――」
正直に言うのが恥ずかしくて適当に誤魔化そうとしたが思いとどまる。
そう言えばこれは皐月も無関係ではない。だったら説明しておいた方がいいな。
「今度、デートする事になったんだよ」
「そういう見栄はいいから。お兄ちゃんに私以外にデートする相手がいる訳ないじゃん」
「失礼な奴だな。本当にデートするんだよ。皐月以外と」
お茶の入ったコップ片手にソファーに移動して皐月の隣に座る。
座ってから気付いたのだが机の上にレジ袋が一つあった。このレジ袋は学校から家の間にある書店のもので場所的に便利なので普段から利用させてもらっている。
中には数冊の漫画本。BL以外にも俺が読んでいる少年漫画もあったので、それを取り出して読む。
「私以外となると……桐生くん?」
「何でそこで男の名前が上がんだよ!? 普通に女の子だ!」
皐月は重度の腐女子ですぐに俺を仲の良い男子とカップリングしたがる。
別に皐月の趣味に文句を言うつもりはないが、せめて兄をネタに使うのだけはやめてほしい。
「二次元の?」
「三次元」
「お母さん?」
「母親と出かける事をデートとは呼ばない」
その理屈で言うと本来は妹と出かける事もデートとは呼ばないのだが。
ただ何故か皐月はデートという言い方に拘る。
にしても疑り深い奴だな。そんなに兄が女の子とデートする事が信じられないのか。
「え、じゃあ……まさか、遥ちゃん?」
一旦漫画を机に置いて「それはないだろう」といった感じの表情をしている皐月。
さっきまでの俺を小馬鹿にしている感じとは違う。
「外れ」
「だよね〜」
……本当に意味が分からない。何が言いたかったんだ?
このまま待っていても答えが出そうにないな。
ていうか、出る訳ないけど。皐月は月城さんの事を知らないんだから。
「月城さんっていって俺のクラスメイト。今度の日曜にデートする事になった」
事情がアレで正直に全部話す訳にはいかないので、適当に誤魔化しながら説明する。
必要なのは俺が日曜に用事が出来たということだけだ。
本音はデートの事を話すのも恥ずかしいのだが、後でバレる方が面倒臭い。具体的に言うと100%の確率でからかわれる。
中3の時、俺がバレンタインでチョコを貰った時は大変だった。しかもそれが勘違いだったのだ。本当は桐生に渡したかったらしいのだが、直接渡すのが恥ずかしいので友達の俺に頼んできたとのこと。
その件で余計にからかわれたし、勘違いのショックとで色々な意味で嫌な事件だった。
「月城さん? どこかで聞いたような……って、今度の日曜!?」
驚愕のあまり勢いよく俺に詰め寄ってきた。
上の方のボタンを開けているせいで服の隙間から下着が見える。
兄だから大丈夫だけど、年頃の女の子なんだからもう少し羞恥心を持った方が良いと思う。
さすがに家族が相手だから油断しているだけで、同級生の男子とかには見せていないだろうが。
もし見せていたら説教だ。後、その同級生の記憶を消す。
「そうだ」
「日曜って私とデートの日だよね!?」
これは別に忘れていたとかではない。単純に優先順位の問題である。
確かに可愛い妹とのデートは大事だ。ただ皐月とのデートは今までも数え切れないくらいしてきたし、これからもする。
でも月城さんとのデートはそうとは限らない。上手く口説き落として付き合えれば良いが、失敗すればそこで終わりだ。
「悪いとは思っているけど、別にいいだろ。どうせ、ただの荷物持ちだ」
そう荷物持ち。
デートと言っても、その実態は皐月の買い物に付き合わされるだけだ。
それもデートっぽいと思う人もいるかもしれないが、問題は買い物の内容だ。
服とかアクセサリーのような物ならまだデートっぽいだろう。だが皐月が買うのは漫画にラノベ、ゲーム、フィギュアといったものだ。
全くデートっぽい雰囲気なんてない。
まぁ、実の妹が相手なんで当たり前といえば当たり前だが。
「そんなんだから彼氏が出来ないんだよ、お兄ちゃん!」
「だったら変わる必要はないな」
彼氏なんて欲しくない。彼女なら欲しいが。
月城さんと付き合いたい。
その時、ガタッとリビングの扉が開く音がした。
誰だ?
両親ということはないだろう。両親は共働きで二人とも帰ってくるのが遅い。
早くても19時は超える。今はまだ18時を少し過ぎた頃だ。
と、そこまで考えて答えに辿り着く。常識的に考えて一人しかいない。
考える必要もなかった。
「えーと、何してるの響也くんに皐月ちゃん」
扉の方に視線を向けると、そこに立っているのは予想通りの人物だった。
ある意味で現在俺を最も悩ませている女――間宮遥だ。
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