第2話

拾った写真と月城さんを交互に見ながら何が起こったか考える。

俺も動揺しているが、相手も同様に思考がフリーズしている。

いや、どうやら俺以上のようだ。何か変な汗をかいている。

いつも冷静な月城さんからは想像できない姿だ。

……かわいい。こんな状況だが癒やされる。

そのおかげか少し落ち着いてきた。


「えーと……この写真は何?」


「べ、別に普通でしょ? クラスメイトの写真を持っているぐらい……」


問い掛けに対して月城さんはギリギリの所で強がる。

俺はどう対応していいか分からず――


「……そ、そうだね」


と、思わず苦笑いしてしまう。

いくら何でも無理があるだろ!

月城さんと遥に交流はない。遥とは学校でもよく一緒にいるんだ。もしあるなら気付いている。


……そうなると友達でも何でもないただのクラスメイトの写真を持っている事に。

いや、普通は友達でも写真を持ち歩くとは考えにくい。しかもこの写真、よく見ると盗撮だし。

恐らくスマホで隠し撮りしたものを印刷したのだろう。


本当に何でこんなものが月城さんのスカートのポケットから?

考えられる答えは一つしか思い付かないが、いやいやそんなまさか!

さすがにそんな事が現実にあるとは思いたくない。


……聞きづらいけど、ここは本人に確認するしかないか。

ここで誤魔化して有耶無耶にすると色々マズイ事になる気がする。


「もしかしてストーカー?」


「ストッ!? ……違うから。そういうのじゃないから」


図星をつかれたせいで取り乱しかけたが、ギリギリの所で耐えた。

ふむ、どうやら俺の予想通りらしい。有耶無耶にしなくても色々マズイな。


「ただ間宮さんが好きなだけ」


どうやらこれ以上の誤魔化しは無駄と悟ったらしく開き直ってきた。


さて、どうしよう……。

俺は別に同性愛を否定するつもりはない。本人達が幸せなら、それで良いと思っている。

だが現実に――しかもそれが自分の好き人がそうだった場合の対処法なんて分かるはずがない。

相手が幼馴染の遥なのも混乱に拍車をかけている。


「それはどういう意味で? 友愛? 憧れ? それとも――」


「性的な意味で」


月城さんは即答した。

性的って。何でそんな生々しい言い方を……。

普通に恋愛的で良いと思うのだが。

ちょっと興奮して――間違えた。意味が分からない。


「より具体的に言うと?」


「まずはあの可愛らしい唇にキスをしたいわね。それから大きな胸を後ろから揉みしだいて、私のテクニックに感じ人前では出来ないようなみっともない顔をしているところにこ言葉責めで止めを刺したい」


「ふむふむ、なるほど。次は?」


「そうね、次は首筋に……って何でこんな事を話さないといけないのよ……」


実際にプレイしている所を頭に浮かべていたのか恍惚とした表情をしていた月城さんだが、途中で冷静になったらしく怪訝な視線を向けてきた。

は! 俺は一体何故こんな質問をしていたんだ……。

今本当に重要なのはそこじゃないのに。

……でも、どうしても気になる自分がいる。


「他に聞く事はないの?」


「日曜のデートって無効になってないよね?」


「……は?」


ポカーンとする月城さん。

いつもと違って今日は色々な表情の月城さんを見れて楽しい。


「まだデートする気なの? この状況で」


「……? そりゃ、するよ。折角好きな人とデートできるチャンスなんだから」


「私、今言ったよね? 他に好きな人がいるって」


「それとデートに何の関係が?」


付き合っているなら話は別だが。誰かから恋人を寝取ったりするつもりはない。

だから遠慮する必要は全くない。月城楓と間宮遥は付き合ってないのだから。


「関係あるでしょ。好きな人がいるのに、他の男をデートに誘ったのよ。何か企んでいるんじゃ、って疑わないの?」


「いや、別に」


「別に、って……」


月城さんが理解できないといった視線を向けてくる。

え、俺、何か変なこと言ったか?


「だって遥と仲の良い俺を利用して近付こうってだけでしょ? 騙して金を奪おうとか危険なこと企んでいるわけじゃないんだから気にする理由はないと思うけど?」


「……気付いていたの? 私が間宮さんと付き合うために成瀬くんの好意を利用しようとしていたこと」


「うん、月城さんは遥を好きだって知った瞬間にね」


だって他にない。

好きでもない相手に告白されて、それを断ったのに自分からデートを言い出す理由なんて。


教室で月城さんの方を見るとよく目が合っていたのだが、これは完全な勘違いである事も同時に気付いた。

月城さんは俺を見ていた訳ではない。俺と一緒にいた遥を見ていたのだ。

もしかしたら月城さんの方も俺に気があるのでは? とか考えていた自分

が恥ずかしい。


「それなのにデートするの……?」


「さっきも言ったけどチャンスだからね。本来なら告白してもフラレて終わりだった。それなのに遥のおかげでデートできるんだ。だから、そこで月城さんを口説いて好きにさせれば何の問題もない」


「……なるほど、そういう考え方もあるのね。ポジティブというかストーカー的気持ち悪い発想というか」


ストーカーは月城さんでは?

そう思ったけど口に出すのはやめた。わざわざ自分で好感度を下げるような真似をするのは下策だ。


「でも無理ね。私が他の人を好きになるとは思えないもの」


「それは試してみないと分からない」


と言いつつ勝算がある訳ではない。

ただ俺と月城さんは相性が良いと思う。マトモに喋ったのはこれが初めてだが凄く楽しい。より好きになってきた。


「……分かった。デートしてあげる」 


「本当に!?」


「ええ、本当。その代わりちゃんと間宮さんを私に紹介して。それが条件よ」


「ああ、分かってる」


本来なら嫌がるところだろう。もし月城さんと遥が出会って上手くいったら、俺の望みは叶わくなるのだから。


それでも俺はアッサリとOKした。

何故か? 別に月城さんと遥の百合姿を想像して興奮したとかではない。

他にちゃんとした理由がある。

紹介しても大丈夫だと知っているからだ。

何故なら遥はノンケ。月城さんみたいな同性愛者ではない。

その上詳しい事は聞いていないが好きな男がいるみたいな話も聞いた事がある。

そうなると月城さんが遥を攻略する事は難しい。

あれ? 何かブーメランのような気が……うん、気にしたら駄目だ。


それからデートの日時と待ち合わせ場所を確認して、連絡先を交換(俺のテンションが気持ち悪いぐらいに上がったのは言うまでもない)して今日のところは終わりとなった……はずだったのだが――


「あ、私、これが人生初のデートだから。本命とのデートじゃないのは残念だけど、折角だから楽しませてよ」


月城さんが帰り際そう挑発的に耳元で囁いてきた。

予想外だったのとあまりの破壊力に軽く意識が飛んでしまった。

くっ……なんて性格の悪さだ……。これは今度のデートも簡単にいきそうにないな。





  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る