俺が好きになった女の子は百合でした

二重世界

第1話

人生の分岐点、それは大抵自分ではどうすることもなく唐突にやってくる。

非常に不条理きわまりない。幸せになるのならともかく、己に非がなくても

運悪く不幸になる可能性があるのだから。


だが、もちろん何事にも例外はある。分岐点そのものが来なかったり、もしくは自分で強引に捻じ曲げるかだ。


そして俺こと成瀬響也は自分の意思と力で幸せを掴む選択をした。

だが、この時の俺はまだ知らなかった。神様というのは、とても気まぐれで性格が悪いということに。




高校二年にもなってから一週間くらい経った頃、俺は告白のために好きな女の子を手紙で校舎裏に呼び出した。

自分でもあまりに古典的だとは思うが、これ以上に溢れる自分の気持ちを相手に伝える方法を思い付かなかったのだ。


周りには誰もおらず少し離れたところから運動部の元気な声が聞こえるだけ。そんな中、十分ほど待っていると彼女はやって来た。


「成瀬くんよね? こんなところに呼び――」


「好きです! 付き合ってください!」


彼女の姿を見ると同時に頭を下げ告白した。

先手必勝。下手に会話なんかしてタイミングを逃したりしたら最悪だ。

だったら最初に勢いでした方がいい。


「え〜と……」


予想外の事態に戸惑う彼女。だがすぐに落ち着くと彼女は「ごめん、少しだけ考えさせて」と言った。 

それに対して俺は――


「分かった」


と、返事をしてから頭を上げて彼女の姿を確認する。

彼女の名前は月城楓。肩まで伸びた艷やかで綺麗な黒髪が特徴的だ。スカートからスラッと伸びた脚は美しく、容姿も非常に整っており、こうして向き合っているだけで思わず見惚れしまうほどだ。


「……」


まだ十秒ほどしか経っていないはずだが、俺の感覚としては一時間はずっとこの体勢でいるような気がする。

緊張しているせいだろう。異様に時間が長く感じられる。


……こうなったら追撃するか? このまま沈黙を耐えるのは精神的にツラいし、だったら少しでも俺の気持ちをアピールした方が良い。

そんな事を考えているうちに結論を出たようで、今度は月城さんが頭を下げた。


「ごめんなさい!」


……ああ、やっぱり駄目だったか。そりゃ、そうだ。

俺と月城さんはマトモに話したこともないんだ。そんな相手から告白されても困るだけ。


「理由だけでも聞いていいかな? 付き合っている人でもいるの?」


だからといって、それだけで諦める俺ではない。今後どうするか考えるためにもこの質問は必要だ(さすがに彼氏がいた場合は断腸の思いで諦めるが)。


特別な理由がある訳ではない。だが、それでも自分でも理由は分からないが、どうしようもないくらい月城さんの事が好きなのだ。

だから今日思い切って告白した。


とはいえ、可能性が0だったら告白なんかしない。ほんの少しでも可能性を作ってからする。

一応の根拠はあったのだが、どうやら勘違いだったらしい。


「別にそういうわけではないけど……」


「……?」


月城さんが言い淀む様子を見て違和感を感じた。

いきなり告白されたのだから困惑するのは当たり前だ。だが、どうにもそう言った感じには見えない。

どちらかというと何か企んでいるような……。

妹がたまにこういう表情するので分かる。


「ほら、私達って一年二年と同じクラスだけどマトモに話したことないじゃない? それなのに付き合うのも変な話だと思うのよ」


「確かに。いきなりこんなこと言ってごめん」


ああ、これはアレだな。フる時の定番、友達から始めよう、ってヤツだ。

そして、今日が終われば友達どころかマトモに会話する事もない。

このままだと駄目だ。どうにかせめて次に繋げたい。


「ううん、別に良いの。だから分かり合うために、今度デートしない?」


「うん、そうだね。俺も……デート?」


あれ、聞き間違いかな?

変な単語が聞こえたような。


「そう、デート」


ふむ、聞き間違いではなかったらしい。

いや、まだ分からない。早合点するな。一旦、冷静になろう。

もしかしたら月城さんの言っているデートは、俺の想像しているデートとは違うかもしれない。


「えーと、それは俺と月城さんが二人でどこかで遊ぶってこと?」


「うん、そのデート。って、他にどんなデートがあるって言うの?」


可笑しそうに笑う月城さん。

マジか!?

コッチからどうやって距離を詰めようか考えていたのに、向こうからこんな提案をしてくるとは。

まさか本当に脈アリなのか!?  勘違いじゃなくて!


「次の日曜とかどうかな? もちろん嫌じゃなかったらだけど」


「嫌じゃないです! 絶対行きます!」


下から覗き込んでくる仕草があまりに可愛過ぎる!

別に笑っているとかではない。普通の表情だ。強いて言うなら少し首を傾げているだけ。

それだけの事なのに破壊力が凄い。

さっきまで何か気になっている事があったが、そんな事はどうでもよくなるほどに。


だからなのかは分からない。だが、それでも普段なら絶対にしないミスをしたのだ、月城楓は。


「良かった。じゃあ、待ち合わせは駅前の――」


その時、彼女のスカートのポケットから薄い紙みたいな物が落ちた。


「ん?」


俺はそれに気付くと、しゃがんで落ちた物に手を伸ばす。

これは……写真か?


「ちょ、待っ、それは――」


「……え?」


俺が取るよりも先に写真を確保しようとした月城さんの手は伸びたまま止まっている。

そして俺も写真を――より正確に言うなら写真に写っている人物を見て固まった。

 

写っているのは一人の少女、場所は放課後の図書室だろう。

背に窓から差し込む夕陽がかかっており、非常に絵になる一枚になっている。

コンテストにでも出せば入賞するんじゃないだろうか。


だが、そんな事はどうでもいい。重要なのはそこじゃない。

重要なのは写っている少女が俺の幼馴染――間宮遥であるということだ。










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