第61話 私も匂いを

 私とクラーナは、ラノアがレフィリーナちゃんの元に行ってから、二回目の朝を迎えていた。


「すー……はあ」


 昨日も一昨日も、私はお風呂に入っていない。

 そんな私の匂いを、クラーナは堪能している。彼女は、とてもいい表情をしている。二日お風呂に入っていない私の匂いは、彼女にとって至福のものであるようだ。


「はあ、はあ……」

「クラーナ、大丈夫?」

「ええ、大丈夫よ」


 クラーナの息は、とても荒くなっていた。

 少し心配になるくらいだ。

 流石に、匂いがきついのだろうか。そう思ったが、クラーナの口振りからして、問題ないようだ。


「すー……」

「……ねえ、クラーナ、少しいいかな?」

「どうかしたの?」


 そこで、私はクラーナにとある提案をすることにした。

 クラーナは、かなり長い間私の匂いを嗅いでいる。そろそろ、堪能できたのではないかと思うのだ。


「私も、クラーナの匂いを嗅いでいい?」

「あら? アノンも気になるの?」

「うん、気になる」


 だから、交代してもらいたかった。

 私も、クラーナの匂いを嗅ぎたいのだ。

 私は人間なので、犬の獣人程嗅覚が優れている訳ではない。だが、それでも彼女の匂いを嗅ぎたいのだ。

 クラーナと過ごしていたからかはわからないが、いつの間にか私も匂いが気になるようになっていた。趣向というものは、伝染するものなのだろうか。


「私も嗅がせてもらったのだから、もちろんいいわよ。好きなだけ嗅いでちょうだい」

「ありがとう、クラーナ」


 クラーナは、仰向けになった。

 自由に匂いを嗅いでいいという体勢である。

 という訳で、私は彼女の匂いを嗅ぐ。まずは、その頭からだ。


「ふう……いい匂い」

「そうなの?」

「うん……なんだかよくわからないけど、すごくいい……」

「そうよね……よくわかるわ」


 私の言葉に、クラーナは少し照れていた。

 流石に、彼女もこのように匂いを嗅がれるのは恥ずかしいことであるようだ。

 その恥じらう様子が、とても可愛い。滅茶苦茶興奮してしまう。


 クラーナの匂いは、とてもいい匂いだ。恐らく、普通の感覚ならそう思わないだろう。だが、私にとってこれはいい匂いなのだ。

 どうしてこう思うのかは、よくわからない。やはり、好きな人の匂いだからなのだろうか。

 その後も、私達は匂いを嗅ぎ合うのだった。

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