第60話 寂しさを埋めるためには
私は、クラーナとともに昼食をとることにした。
「さて、それじゃあ、私が作るよ」
「え?」
「だって、クラーナは病み上がりだし。私が作るべきだよね」
今回の昼食は、私が作るべきだと思った。
クラーナは病み上がりなので、無理をさせるべきではないだろう。
普段はクラーナに作ってもらっているが、私も料理ができない訳ではない。かつては、全然できなかった私も、クラーナの指導もあって、今は人並みくらいには上達しているのだ。
「大丈夫よ、アノン。私はもう平気だもの。迷惑をかけたことだし、私が作るわ」
「クラーナ、こういう時に……」
「無理はしていないわ。本当にもう平気なの。心配してくれるのは嬉しいけど、あまり心配し過ぎないで」
「んっ……」
クラーナそう言いながら、私にキスをしてきた。
どうやら、本当にもう大丈夫なようである。
それなら、先程自分を必死に抑える必要はなかったのだろうか。
とにかく、クラーナが元気になってくれたのならよかった。
彼女もこう言っているのだから、私もこれ以上心配しないようにしよう。
「わかった。でも、手伝わせてもらうよ。それは、いつも通りだからいいよね」
「ええ、もちろんよ」
私の言葉に、クラーナは笑顔を見せてくれた。
一緒に料理するのは、いつも通りのことである。だから、彼女も快く返事してくれたのだろう。
「さてと、それじゃあ、早速作りましょうか」
「うん」
私とクラーナは、エプロンを身に着けてキッチンに立つ。
こういう時に実感するのが、ラノアがいないことである。いつもなら、一緒に手伝ってくれる彼女がいないのは、とても寂しい。
「ラノアは、どうしているでしょうね……」
「うん……気になるよね」
「はあ、アノンと二人きりというのも悪くはないけど、やっぱりあの子が傍にいないと不安になってしまうわね」
「そうだね……」
クラーナと二人きりというのは、楽しい面もある。ラノアがいたら、見せられないようなことができるからだ。
だが、その楽しさよりも、寂しさの方が勝っている。彼女がいないことの寂しさは、それ程までに大きいのだ。
「寂しさを埋めるために、今日も明日もひたすらお互いを味わうしかないかもしれないわね……」
「うん、そうかもしれないね」
彼女が帰ってくるまで、この寂しさは拭えない。
だから、私達はひたすら二人でしかできない楽しいことをするしかないだろう。
二人でしかできない。彼女がいなくても楽しい。そう思わなければ、とても落ち込んでしまうだろう。
「……いつかは、ラノアも自立するのかしら。なんだか、それを考えると少し不安になってしまうわ」
「……でも、いつかはそうなるものだと思うよ」
「そうよね……」
私とクラーナは、自然と手を繋いでいた。
なんだか、不安になってしまったのだ。
「変な話をしてしまったわね。こういうことは、今は考えないようにしましょう」
「うん、そうしよう」
「さあ、料理を作るわよ!」
私とクラーナは、未来のことは考えないことにした。
少なくとも、今は考えるべきことではないからだ。
とにかく、今は今を楽しもう。そう思いながら、私達は料理をするのだった。
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