第8話 真ん中で

 私とクラーナは、入浴を終えて部屋に戻って来ていた。


「二人とも、帰って来たんだね」

「ラノア……」

「起きていたのね……」


 すると、ラノアが起きていた。

 口振りからして、私達が出て行ったことを知っていたようだ。


「うん、アノンやクラーナが出て行ったことは知っているよ。それから、寝ていたけど、今物音がしたから、帰ってきたのかなって……」

「そういうことだったのね」


 ラノアは、そのように説明してくれた。

 やはり、私達が出て行ったことには気づいていたらしい。

 それに気づいていたとは、少々驚きである。だが、こっそり出て行ったとはいえ、完全に音を消すことはできていなかったため、気づかれてもおかしくはないのかもしれない。


「というか、アノンとクラーナは時々出ていくもんね」

「え?」


 そこで、ラノアはすごいことを言ってきた。

 確かに、私とクラーナは時々夜中にこの部屋から抜けている。まさか、それまでばれているとは思っていなかった。

 そのことは、中々まずいことかもしれない。なぜなら、私達が抜け出しているのは、ラノアに言えるようなことではないからだ。


「えっと……それは、まあ色々とあるんだよ」

「そっか、やっぱり二人とも大人だから、色々とあるんだね」

「まあ、そういうことね……」


 私の誤魔化したような言葉に、ラノアは納得してくれた。

 恐らく、ラノアは大人が夜更かしして何かするのは普通くらいにしか思っていないだろう。いつかは真実を知るとは思うが、今はそういう解釈をしてもらった方が色々と都合がいい。

 しかし、ラノアの言葉に私は少し疑問を覚えた。

 私達が抜け出すことに慣れているなら、どうして今日はこうして声をかけてきたのだろうか。


「でも、いつもは何も言ってこなかったのに、今日はどうしたの?」

「えっと、実はアノンのことが心配で……」

「私のこと?」


 私の質問に、ラノアはそのようなことを言ってきた。

 どうやら、ラノアは私のことが心配だったらしい。


「寝る前に、幽霊の話をしていたから、アノンが大丈夫かと思って……」

「ああ、そうだったんだ。それはありがとう、心配させてしまったね……」


 ラノアが心配していたのは、幽霊の話で私が怖がっていないかということだった。

 私が夜中に出ていったため、そのような心配をさせてもらう。ラノアは、本当に優しい子だ。


「確かに怖かったけど、クラーナがいたから大丈夫だったよ」

「あ、そうなんだ。それなら、よかったね」


 私の言葉に、ラノアは笑顔を見せてくれた。

 ラノアに、あまり心配をかけるのはよくない。安心してくれて、本当によかった。


「さて、私達ももう寝るつもりだから、ラノアも寝ましょうか」

「あ、うん、そうだね」


 そこで、クラーナがそう言ってくれた。

 帰って来たので、私達ももう寝るつもりだ。


「それなら、今からはアノンが真ん中になる?」

「え?」

「だって、その方が安心できるよ」


 私達がベッドに上がろうとしていると、ラノアがそのようなことを言ってきた。

 どうやら、私が真ん中になってもいいようだ。

 それなら、言葉に甘えさせてもらおうか。両側に誰かいた方が、恐怖感が少ないはずである。


「それなら、その言葉に甘えさせてもらおうかな?」

「うん、それじゃあ、私は少しずれるね」


 ラノアがずれてくれたので、私はベッドの上に寝転がった。

 その次に、クラーナが寝転がり、私が真ん中ということになった。

 やはり、両側に人がいるというのは安心感がある。ここなら、さらに安心して寝られそうだ。


「さて、それじゃあ、早く寝ようか」

「ええ、お休み、二人とも」

「お休み、アノン、クラーナ」

「うん、お休み……」


 二人と挨拶を交わして、私はゆっくりと目を瞑る。

 こうして、私達は眠りにつくのだった。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る