第9話 寝起きの怪奇

 カーテンの隙間から差す光に、私は目を覚ます。

 昨日は、幽霊の話で怖かったが、結局熟睡できた。隣にクラーナとラノアがいてくれたからだろう。


「……うん?」


 そこで、私はあることに気づいた。

 なんだか、体の上に何者かの気配を感じるのだ。

 当然のことだが、クラーナもラノアも隣に存在を感じている。ということは、そこには三人目がいるということだ。


「……」


 私の額から、汗が滲んできた。

 三人目がいるという事実が、そもそも怖いが、私は別の恐怖感を覚えていた。

 もしかして、これは例の幽霊なのではないだろうか。

 いや、例の幽霊ならこんな朝に現れないかもしれない。普通に考えて、幽霊が動くのは夜である。

 だが、この場合なら幽霊の方がいいのではないだろうか。幽霊以外がいたなら、それはそれで問題である。

 結局、どちらにしても怖いことには変わらない。結局、確認してみるしかないだろう。


「あ、おはようございます」

「……え?」


 私が自身の目の前に目を向けると、薄い女性がいた。

 薄いというのは、その体が透明であるということだ。若干、向こう側が透けてみるのである。

 しかも、その女性には足がない。なんだか、よくわからないが足の辺りが曖昧になっているのだ。

 つまり、この女性は幽霊であるということだろう。


「うっ……」

「あ、大丈夫ですか?」


 その事実に、私は思わず呻いていた。

 目の前にいる存在が、幽霊であるということは恐らく間違いない。

 しかし、その事実を受け入れるのは、私にとってとても恐ろしいことである。

 だが、目の前の幽霊が善良な人であることはわかった。なぜなら、私のことを心配してくれているからだ。

 やはり、クラーナの言っていた通りである。そのため、怖がる必要はないはずだ。

 そう思うのだが、何故か私は怖がってしまっている。長年染みついてきた恐怖は、たった一言では拭えないようだ。

 しかし、それではこの幽霊に失礼である。一言で拭えないなら、何度か言葉を交わしてみればいいのではないだろうか。


「えっと……あなたは、幽霊さんなんですか?」

「はい、幽霊です」

「な、なるほど……」


 私の質問に、幽霊はそう答えてくれた。

 やはり、幽霊ではあるようだ。その事実は、かなり衝撃的なことである。

 そして、同時に友好的であるということも理解できた。それが理解できて、少しだけ私の恐怖は和らいでくる。


「……あなたが私達の前に姿を見せるのは珍しいわね」

「あ、クラーナ」

「この人が、幽霊さんなんだ……」

「あ、ラノアも……」


 そこで、私はクラーナとラノアが起きていたことに気づいた。

 二人とも、寝起きという感じではないため、既に起きていたのだろう。

 こうして、私は幽霊と出会ったのである。

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