第4話 舐めるのは

 私は、クラーナとラノアと一緒に家で過ごしていた。

 そこで、この家に幽霊がいるということを知らされたのだ。

 その後、色々とあって、今は右手でクラーナ、左でラノアをそれぞれ撫でる両手に花の状態である。


「クゥン……」

「あっ……」


 撫で始めてからしばらくして、クラーナの顔が私の顔に近づいてきた。

 どうやら、私の頬に狙いをつけているようだ。


「ペロ……」

「あっ……クラーナ」


 これは、娘の前でしても大丈夫なのだろうか。そのような不安が、私の頭を過ったが、その次の瞬間、クラーナが私の頬に舌を這わせてきた。

 温かく湿った柔らかいものが、私の頬を撫でていく。この感触は、とても心地いいものだ。

 だが、ラノアの前であるため、色々と自制しなければならないのが辛いところである。


「ねえ、アノン。私も舐めていい?」

「え?」


 そこで、ラノアからすごい提案をされた。

 私も舐めていいか、その質問に私はどう答えればいいのだろうか。


「アノン、大丈夫よ。これは、犬の獣人の愛情表現よ。親子や友達でもすることはあるわ」

「え? そうだったの?」

「ええ、だからラノアも舐めてもいいのよ」


 悩んでいた私に、クラーナがそう言ってくれた。

 どうやら、これは犬の獣人の愛情表現であるらしい。

 よく考えてみれば、懐いた犬は色々な所を舐めてくる。それと同じということだろう。

 思えば、恋人になる前から、クラーナには散々舐められた。だから、問題はないのだろう。

 しかし、色々と別の意味も連想してしまうのも事実である。犬の獣人だから、完全に犬という訳にはいかないのではないだろうか。


「あ、ラノア、口には駄目よ」

「え? どうして?」

「唇は、恋愛の意味だから。流石に、そこは私も譲れないし、ラノアも好きな人のために取っておくべきだわ」

「そうなんだ。それなら、口周りはやめるね」


 色々と動揺している私に、そのような会話が聞こえてきた。

 やはり、犬とは少し違うようで、口周りは大切であるらしい。


「うん?」

「アノン、どうかしたの?」

「いや、クラーナは最初から舐めてきていたよね」


 そこで私は、少し違和感を覚えた。

 口周りは大切で、無闇に舐めるべきではない。それは、恋愛的な意味だから。その理由は理解できる。

 しかし、クラーナは最初から舐めてきていたはずだ。それは、どういうことなのだろうか。


「……それは、私が最初から恋愛的な意味でアノンに接してたからよ」

「あっ……」


 私は、自分の疑問がとても簡単なものだったと気づいた。

 そういえば、クラーナはその前に私のことを好きになっていたのだ。

 それなら、別におかしいことではない。恋愛的な意味で、私の唇を奪ってきたのだ。

 犬の獣人の知識がない私に対して、少々ずるい方法な気もするが、私もその時点でクラーナのことが好きだったし、何も問題はないということにしておこう。


「ねえ、舐めてもいい?」

「あ、うん。大丈夫だよ」


 私とクラーナの話に区切りがついた所で、ラノアがそう聞いてきた。

 きちんと待てるラノアは、とても賢い子だ。これは、早く舐めさせてあげた方がいいだろう。

 こうして、私はクラーナとラノアから舐められることになるのだった。

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