第3話 両手に花

 私は、クラーナとラノアと一緒に家で過ごしていた。

 そこで、この家に幽霊がいるということを知らされたのだ。


「大分落ち着いたようね?」

「うん……」


 幽霊に怯える私を、クラーナはずっと抱きしめてくれていた。

 そのおかげで、私の恐怖は大分和らいでいた。やはり、クラーナの胸の中は、とても落ち着ける場所である。

 落ち着いたので、私はゆっくりとクラーナから離れていく。名残惜しいが、流石にラノアの前でずっとそうしている訳にはいかないのだ。


「アノン、大丈夫?」

「あ、うん、大丈夫だよ」


 クラーナの胸から離れた私に、ラノアが話しかけてきた。

 その瞳は、少し不安そうでもある。

 この話は、ラノアが発端だった。そのため、責任を感じているのだろう。


「ラノア……」

「あっ……」


 私は、そんなラノアを引き寄せた。

 そして、その頭をゆっくりと撫でていく。


「大丈夫、ラノアのせいじゃないよ」

「アノン……」

「私が怖がりなのが悪いんだから、気にしないで」


 私は笑顔で、ラノアに語りかけた。

 別に、ラノアは何も悪いことをしていないのだ。それなのに、責任を感じさせるなど、あってはならないことである。


「うん……」


 私の胸の中で、ラノアも少し落ち着いていた。

 どうやら、責任を感じる必要はないと思ってくれたようだ。


「……」

「あっ……」


 そこで、私はとあることに気づいた。

 それは、クラーナが少し寂しそうにしていることだ。

 クラーナは、私がラノアに構っていると、時々そういう風になることがある。

 ここで、飛び込んできてくれてもいいのだが、クラーナはそれをしない。恐らく、ラノアに気を遣っていたり、親としてそのような姿を見せられないと思っているのだろう。

 その気持ちは、私もわからないものではない。私も、ラノアの前でクラーナに甘えられないと思ったりする。


「クラーナ」

「えっ……」


 しかし、私はクラーナを引き寄せることにした。

 寂しそうなクラーナを見ていると、そうしなければならないと思ったのだ。

 やっぱり、我慢することはよくないことである。嫌な思いをするくらいなら、多少ラノアの前でそういう姿を見せる方がいいはずだ。


「アノン……」


 クラーナもそう思ったのか、私に甘え始めた。

 その姿は、とても愛らしい。

 やはり、クラーナはとても可愛い。こんなに可愛い子が、私のお嫁さんとはなんという幸福なのだろうか。


「クラーナ……」

「あう……」


 私は、右手でクラ―ナを、左手でラノアをそれぞれ撫でる。

 片手には妻、片手には娘、両手に花でとても幸せな気分だった。

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