第2話 前の住人

 私は、クラーナとラノアと一緒に家で過ごしていた。

 そこで、とても恐ろしいことを言われたのだ。


「えっと……ずっとこの家にいたとは?」

「あ、これも言わない方がよかったのかな……?」

「言ってしまったものは仕方ないわ。私から、説明しましょう」


 私の質問に、二人は色々と相談していた。

 ラノアから言われたことだが、クラーナも知っていたことらしい。

 ということは、これはラノアが来る前からわかっていたことなのだろうか。

 なんだか、体が震えてくる。正直とても怖い。


「アノン、この家がどういうものなのかは話したことがあるわよね?」

「この家がどういうものか……」


 クラーナはまず、そのような質問をしてきた。

 この家がどういうものか、それは霊的なことに関連することでという意味だろうか。

 そういえば、出会ったばかりの頃、一度だけ聞いたことがある。確か、この家は事故物件であるはずだ。


「もしかして、事故物件という話?」

「ええ、その話よ。あの時アノンには、何も起こっていないと言ったけど、あれは嘘……という訳ではないけど、実は少し語弊があるのよ」

「語弊?」


 どうやら、事故物件という話で間違いはないらしい。

 あの時、クラーナは霊的現状を体験したことはないと言っていた。

 しかし、それは嘘であるようだ。いや、正確には語弊があるということらしい。


「えっと……心霊現象は、特に起こっていないの。なぜなら、事前にそれを巻き起こした人……といっていいのかはわからないけど、とにかくその原因となった人と話をつけていたのよ」

「原因となった人……といっていいのかわからない人」


 クラーナの言葉で、私はさらに震えてしまう。

 心霊現象の原因というと、もう答えのようなものだ。

 それとクラーナが対話した。そんな恐ろしいことがあるのだろうか。


「アノン、落ち着いて。私の胸に体を預けていいから」

「うん……」


 私は、顔をクラーナの胸に埋めた。

 ここは、とても落ち着ける場所である。ラノアの前で、こうなるのは少しみっともないが、今はそんなことを気にしている場合ではない。


「ここにはね。若くして亡くなった犬の獣人の女性がいるの」

「うう……」

「アノン、落ち着いて……」


 どうやら、幽霊は犬の獣人の女性であるようだ。

 まさか、前の住人も犬の獣人だとは驚きである。


「その人は、とある人を待つために留まっているらしいわ。私はその人と話して、暮らしてもいいということになったわ。それで、お互いに不干渉ということにしたの。同族であることもあって、話しも早かったわ」

「そ、そうなんだ……」


 クラーナはその幽霊と話し合い、お互い不干渉ということにしたらしい。

 同族であることもあって話も早かったようだ。幽霊としては、待ち人を待てればいいし、クラーナとしては暮らせればいい。確かに、不干渉でもなんとかなるのだろうか。


「その証拠に、彼女はほとんど天井裏から出てこないわ。幽霊だから、特に動く必要もなくて、眠っていればいいようなの。私も、しばらく見ていないわね」

「な、なるほど……」


 そういう話があったため、幽霊は天井裏に潜んでいるようだ。

 活動する必要もないようで、ほとんどは眠っているらしい。

 それなら、特に気にする必要もないのだろうか。いや、天井裏に潜まれているのは、中々怖い気もする。


「だから、大丈夫よ」

「うん……」


 尚も不安な私を、クラーナはゆっくりと撫でてくれる。

 そのおかげで、少しだけ安心できてきた。

 こうして、私はしばらくクラーナの胸で撫でてもらうのだった。

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