第13話 私達の娘

 私とクラーナとラノアちゃんは、元の世界に戻って来ていた。

 幸いにも、隠れ里の入り口は開いていたため、すぐにこちらに戻ってくることができた。


「さて、帰ろうか」

「ええ、帰りましょう」

「うん、帰ろう」


 私とクラーナは、両側からラノアちゃんと手を繋いでいる。

 私達は、ゆっくりと歩き出す。


 これからは、ずっと三人の生活になる。それが、嬉しくて仕方ない。

 ラノアちゃんが言い出してくれて、本当によかった。

 こうして、私達は家へと帰るのだった。




◇◇◇




 私達は、町の中を歩いていた。

 そこで、クラーナとラノアちゃんは、あるものを見ていた。

 それは、いつもクラーナが見ていた小物屋だ。


「どうかしたの? 二人とも?」

「ええ、実はラノアに必要なものが、あそこにあるのよ」

「必要なもの……?」


 私の疑問に、クラーナが答えてくれた。

 何やら、ラノアちゃんに必要なものがあるらしい。


「ねえ、ラノア?」

「うん。私もクラーナと同じように欲しいの。首輪……」

「首輪?」

「あ、ラノア、一応チョーカーと言いなさい」


 ラノアちゃんとクラーナの言葉で、私は理解する。要するに、チョーカーが欲しいということだ。

 犬の獣人にとって、チョーカーは特別な意味がある。確か、親愛という意味があるはずだ。

 恐らく、そういった面から欲しいと思ったのだろう。それなら、是非買ってあげたい。


「チョーカーか。いいと思うな」

「ええ、これは絶対に必要なものよ」

「そ、そうなんだ」


 クラーナは、絶対と言い切る程、チョーカーが必要だと言った。

 やはり、犬の獣人にとって、チョーカーは大切なものであるようだ。

 とりあえず、私達は小物屋に近づいていく。


「小物屋さん、チョーカーを一つください」

「あら? 二人とも、久し振り……あ、三人ね?」

「あ、はい」


 小物屋の店主とは、すっかり顔馴染みだ。

 何故かこの店は、クラーナの気を引くのである。


「何色がいいかしら?」

「あ、えっと……ラノアちゃん、何色がいい?」

「ア、アノンが選んで……」

「あ、うん……」


 店主に聞かれて、ラノアちゃんに聞いたが、結局色を選ぶのは私だった。

 とりあえず、私はラノアちゃんに似合う色を考える。

 クラーナには、黒を選んだがどうしようか。


「黒でお願いします」

「黒ね。わかったわ」


 結局、私は黒色を選んでいた。

 なんだか、お揃いの方がいいのではないかと思ったのだ。

 私は、店主にお金を渡して、商品を貰う。


「さて、ラノアちゃん」

「うん」


 そのチョーカーを持って、私はラノアちゃんに近寄った。

 こういう時に、つける役は私だ。クラーナとの経験で、そうわかったのである。


「つけるね?」

「うん……」


 私はラノアちゃんの首に、チョーカーを巻き付けていく。

 クラーナとお揃いのチョーカーは、ラノアちゃんによく似合っている。

 黒色を選んだ私の考えは、間違っていなかったようだ。


「似合っているよ、ラノアちゃん」

「ええ、私とお揃いね」

「うん!」


 ラノアちゃんは、尻尾を振って喜んでいた。

 非常に可愛らしい姿だ。


「これで、ラノアも正式に家の子ね……」

「うん!」

「正式に家の子か……」


 クラーナの言葉で、私は考える。

 これから、私達はラノアちゃんとずっと暮らしていく。

 つまり、実質的には娘みたいなものだ。


「ラノアちゃん……少しいいかな?」

「アノン? 何?」

「ラノアちゃんは、私達の子供に……家族になってくれる?」

「家族……?」

「うん。今までも、そうだったかもしれないけど、ここでちゃんと決めておきたいんだ」


 私の言葉に、ラノアちゃんは目を丸くする。

 しかし、すぐにその表情が、変わっていく。


「私、アノンとクラーナの家族になりたい。二人のこと、お母さんみたいに思っていた。だから、二人の子供になりたい」

「うん……」

「ええ……」


 私とクラーナは、ラノアちゃんを抱きしめる。

 ラノアちゃんは、私達の娘になった。だから、私達は家族なのだ。


「これからもよろしくね……ラノア」

「アノン……うん!」


 私はラノアに、そう呼びかけていた。

 この呼び方は、私にとっての一種のけじめだ。

 彼女を、私達の娘にするという証なのである。


「おめでとう…といったら、いいかしら?」

「あ……」

「う……」

「ああ……」


 そこで、私達は小物屋さんの声を聞く。

 そういえば、店の前で奇妙なことをしてしまっていた。

 これは、申し訳ないことである。


「ごめんさない、小物屋さん。私、つい……」

「いいのよ。なんだか、素敵だったし。お祝いに、お花あげちゃう」

「あ、ありがとうございます……」


 小物屋さんは、特に怒っていなかった。

 それどころか、どこかから取り出したお花を渡してきたのだ。

 私達は、その祝福に笑顔になるのだった。


 こうして、私達は家族になった。

 これからも、私達はずっと一緒なのだ。

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