第117話 私達の毎日

 カーテンの隙間から差す光で、私は目を覚ます。

 どうやら、朝が来たようだ。


「はあ……」


 隣に眠るのは、犬の獣人であるクラーナだ。

 彼女が、発情期に入ったため、ここ数日は色々と大変だった。

 もちろん、数日間ずっと家にいた訳ではない。本当に一日を家で過ごしたのは最初の一日だけで、後は依頼にも行った。


 一応、クラーナも依頼くらいはできるらしく、生活のために仕方なくそうしたのだ。私としては、発情期で周りに影響を与えるクラーナが心配だった。特に問題は起こらなかった。

 どうやら、クラーナの影響を受けるのは、私くらいらしい。


「うん……」


 そんなことを考えていると、隣のクラーナが声をあげた。

 いつも通り、クラーナも起きたみたいだ。

 私は、クラーナに顔を近づける。


「おはよう、クラーナ」

「ええ、おはよう、アノン……ん」

「ん……」


 ゆっくりと唇を重ね合わせて、朝の挨拶を済ます。

 そこで、私はあることに気づく。クラーナの雰囲気が、昨日までとは少し違うのだ。


「あれ? クラーナ、発情期……」

「ええ、終わったみたいね……」


 どうやら、クラーナの発情期は終わったらしい。

 これで、とりあえずは一安心だろう。


「色々と迷惑をかけて、申し訳なかったわね」

「大丈夫、なんだかんだ言って楽しかったから、問題ないよ」

「ありがとう、アノン……」


 クラーナの謝罪に、私はそう答えた。

 色々あったが、これも楽しかったと思える。恋人同士だし、多少求められるのは問題なかった。それ以外の心配もあったが、まあそれも大丈夫だ。


「……そういえば」

「え?」


 そこで、クラーナが何かを思い出したかのように、そう呟いた。

 一体どうしたのだろうか。


「実は、前から気になっていたんだけど、私とアノンは恋人同士なのよね?」

「あ、うん。そうだよ」


 クラーナの質問に、私は思わず首を傾げてしまう。

 私達が恋人同士なのは、今更疑うようなことでもないはずだ。

 このタイミングで、こんなことを言われる意味がよくわからない。


「でも、私達はこれからも、ずっと一緒にいると誓っているわよね?」

「あ、うん。そうだね……」

「そういう関係って、もしかしたら恋人よりも深いんじゃないかと思うのよ?」

「え……?」


 クラーナの言葉の雲行きが、少し変わってきた。

 恋人より深い関係など、私は一つくらいしか思いつかない。


「そ、それって、プ、プロポーズってこと?」

「……ええ、そうともいえるわね」

「こ、こんなよくわからないタイミングで?」

「ええ、それついては、申し訳ないと思っているわ。でも、いつまでも引っ張っていても仕方ないじゃない」


 やはり、これはクラーナからの一種のプロポーズだったようだ。

 しかし、こんな大事なことを、朝起きたこんな時に言わなくてもいいのではないのだろうか。

 もう少し、ムードというか、なんというか、色々とあると思ってしまう。


「ま、まあ、クラーナとはいずれ、そうなりたいとは思っていたけど……」

「そうよね。そう思ってくれているとは思っていたわ」


 ただ、そう言われると断ることはできない。

 私は、クラーナのことを愛しているし、家族になりたいと思っている。これを断る理由は、何もないのだ。


「それじゃあ、私と結婚してくれる? アノン?」

「もちろんだよ、クラーナ」


 クラーナの言葉に、私はそう答えた。

 なんだか、よくわからない内に、クラーナとの関係が進んでしまった。

 しかし、こうなったら仕方ない。


「指輪とか、買わないといけないのかな?」

「ええ、アノンのお父さんにも、挨拶に行かないと……」

「いや、あの人は……でも、大切なのかな」


 これからやることは、色々ある。

 だが、きっと大丈夫だろう。クラーナと一緒なら、なんでも大丈夫だ。


「まあ、色々あるけど、これからもよろしくね、クラーナ」

「ええ、アノン……」


 私達の日常は、これからも続いていく。

 クラーナとの毎日が、続いていくのだ。

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