第111話 今日からは元気に

 カーテンの隙間から差す光に、私は目を覚ます。

 隣には、クラーナが一緒だ。


 昨日は、ガランと会ってきた。そのことで、私は色々と疲れてしまっていた。

 だが、寝る前のクラーナとの話が効いたのか、私はとても元気だ。今日は、全然大丈夫そうだ。


「うん……」

「あっ……」


 私がそんなことを考えていると、クラーナが声をあげた。

 どうやら、クラーナも起きたようだ。


「おはよう、クラーナ」

「ええ、おはよう……んっ」

「ん……」


 起きて早々、クラーナとキスをする。

 いつも通り、おはようのキスだ。

 このキスがないと、一日が始まらないといっても、過言ではない。


「アノン、元気そうね」

「うん。元気いっぱいだよ」

「よかったわ……」


 私の顔を見て、クラーナは安心したように、表情を変える。

 その笑顔は、とても眩しいものだった。この笑顔も、クラーナの魅力の一つだ。


「もう一回、キスしてもいい?」

「え? いいわよ」

「それじゃあ、いただきます……ん」

「ん……」


 その笑顔に我慢できなくなってしまい、私はクラーナにもう一度キスをした。

 唇と唇が触れるだけのキス。何度も、何度も、キスをする。このまま、脳が蕩けてしまいそうだ。


「今日は、依頼に行こうね……」

「ええ……ん」


 話をしながらも、キスを続ける。


 こうして、私達の一日は始まるのだった。




◇◇◇




 私とクラーナは、依頼を受けるために、ギルドに来ていた。

 そこで、見知った顔が、私達に話しかけてくる。


「二人とも、久し振りだな」

「あ、リュウカさん」

「あら、久し振りね」


 それは、私達と仲がいいリュウカさんだった。

 まだ、パーティが集まっていないのか、一人のようだ。


「丁度、いい時に来てくれたな」

「え? いい時ですか?」

「ああ、実は頼みたいことがあってな……」


 私達に、リュウカさんはそんなことを言ってきた。

 頼みたいこととは、なんだろうか。もしかして、また一緒に依頼をして欲しいということかもしれない。


「ちょっと、こっちに来てくれるか?」

「え、あ、はい……」

「一体、なんなのかしら……?」

「うん……なんだろうね」


 しかし、私の予想は外れている気がする。

 なぜなら、リュウカさんが人気のない場所で、話し合おうとしているからだ。

 つまり、人に聞かれたくない話であるということ。もしかしたら、ティネちゃん辺りの話かもしれない。あの子が、犬の獣人であるということは、隠されているのでそう思うのだ。


「実は、ティネのことでな……」

「あ、はい……」


 やはり、予想した通りのことだった。

 何か、問題でもあったのだろうか。心配だ。


「あいつのことを、他の二人にも話したいと思っているんだ」

「え?」

「そろそろ、その時だと思ってな」

「なるほどね……」


 どうやら、ティネちゃんの秘密を、他のパーティに打ち明けるつもりらしい。

 それは、少し怖いがいいことだろう。いつまでも、隠してはおけないことだ。

 ただ、それで私達に頼みたいこととはなんだろう。


「それで、家を貸してもらいたいんだ」

「家?」

「ああ、人に聞かれたくない話だから、あの家が丁度いい」


 リュウカさんの話で、私は納得した。

 ティネちゃんの秘密は、他人には聞かせたくないものだ。そんな話には、町外れの私達の家は最適である。


「それに、お前達に立ち会ってもらいたいしな……」

「わかりました。大丈夫だよね、クラーナ」

「ええ、もちろんよ」

「そうか。それなら、明日の午前中に尋ねるから、よろしく頼む」


 私もクラーナも、これを断る理由はなかった。

 こうして、私達の家で、ティネちゃんの秘密を打ち明けることが決まった。

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