第110話 安心できる場所
私とクラーナは、ガランの元から家に戻って来ていた。
その日は、結局依頼にも行けず、気づけば寝る時間になっていた。
「アノン……」
「……うん?」
ベッドの上で、クラーナが私に話しかけてくる。
その声色は、少し心配そうな感じだ。
「何かな?」
「少し、元気がなさそうよ? 大丈夫?」
「え……?」
クラーナの言葉に、私は驚いてしまう。
だが、考えてみれば、私は元気ではなかったかもしれない。
今日の出来事で、私はかなり疲弊していた。
今まで避けてきた父親との会合は、私にそうさせるのに、十分なものだったのだ。
「そうかも……」
「やっぱり、そうなのね……」
そこで、クラーナが、私の体を引き寄せてきた。
私の頭が、柔らかいものに包まれる。
「ク、クラーナ!? ど、どうしたの?」
「アノン、辛いなら、そう言ってもいいのよ?」
「あ、うん……」
クラーナは、安心させるために、こうしてくれたようだ。
確かに、安心感がある。ただ、これでは逆に落ち着けないかもしれない。
そんな風に、安心と動揺が、私の中で渦巻く。
「お父さんに会って、辛かったのよね。元を辿れば、私が行こうと言ったからだわ。ごめんなさい」
「あ、いや、それは大丈夫。私も、言って良かったとは思っているから……」
「え? そうなの?」
「うん……」
クラーナに謝られたが、私はガランの元に行ったこと自体は、よかったと思っている。
ここで行かなければ、私はきっと後悔していただろう。
ガランに対しては、色々と思う所はあるが、あれでも一応父親なので、そう思うのだ。
「ただ、やっぱり色々あるからね。あの人とは、普通では言い表せないような感情を抱えているから……」
「……そうなのね」
私の言葉に、クラーナは納得してくれた。
あまり、掘り下げて聞かれると困るので、ここでそう思ってくれるのはありがたい。
「その……」
「うん?」
「あの人は、アノンのことを本当に心配していたわ」
「うん……」
「だから、全て言ってしまったわ。そのことについては、謝らせてちょうだい」
クラーナが言っているのは、ガランに私達の関係を打ち明けたことについてだろう。
それについても、特に問題はない。クラーナの気持ちは、なんとなくわかっている。
「それも大丈夫。あれでも、親だから、そういう風に気を遣ってもらえるのは、ありがたい……かな?」
「そうなのね……それなら、よかったわ」
「うん……」
そんな風に話している内に、私は眠くなってきていた。
クラーナの胸の中で、安心してきたのだ。
「アノン、そろそろ寝ましょうか?」
「あ、うん。お休み……」
「ええ、お休みなさい……」
こうして、私達は眠りにつくのだった。
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