第109話 その言葉がなぜ……?

 私とクラーナは、大悪人であり、私の父親でもあるガランと会っていた。

 しばらく話している内に、ガランはクラーナに目を向けてきた。その視線に、クラーナは驚いたような表情をする。


「お前が、アノンを支えてくれているのだろう?」

「……そうですね。自分で言うのもおかしな話ですが、そうだと思っています」

「そうか……」


 ガランは、クラーナに対して笑う。

 その笑みは、とても穏やかなものだった。

 なんだか、奇妙な感じがする。自分の恋人と、一応父親である人が話しているのは、少しむず痒いものだ。


「……私は」

「うん?」

「私は、クラーナといいます」

「……」


 そこで、クラーナがゆっくりとそう呟いた。

 このタイミングで、再度自己紹介をする。それに何かを感じ取ったのか、ガランは黙る。

 事実として、クラーナの表情には決意のようなものが見える。どうして、そのような顔をする必要があるのだろうか。


「……アノンと、お付き合いをさせてもらっています」

「ほう?」

「え?」


 クラーナの言葉に、私は驚いた。

 まさか、そのことを言うとは思っていなかった。

 私達の関係は、特別なものだ。それは、軽々と他人に言えるようなものではない。

 それを、クラーナは口にした。恐らく、私の父親であるガランだからこそ、言ったのだろう。別に、こんな男は気を遣う必要はないというのに。


「そうか……やはり、そういうことか」

「気づいていたんですね」

「まあな……」

「え?」


 ガランの返答は、私が予想していないようなものだった。

 私達の関係に、勘づいていたらしいのだ。


「手を繋いで入ってくれば、それくらい予想はつく。娘のことなら、猶更だ」

「そんな……」


 驚いている私に、ガランはそう言ってきた。

 この男に、娘のことが予想できるなどと言われるのは心外だ。


「娘のことを、任せたぞ」

「はい。任せてください」

「ふっ、まさか、獣人の女にこんなことを言うなんて、思っていなかったな……」


 クラーナとガランは、会話を続けた。

 何故か私を捨てた人から、私を託す言葉を受けている。

 ただ、この男がクラーナに何もしなくてよかった。娘の恋人だから、遠慮してくれているとでもいうのだろうか。


「あなた、一体何を……」

「幸せになれ、アノン」

「は?」

「俺のように、ろくでもない人生を送るんじゃないぞ」

「……」


 それだけ言って、ガランは顔を背けた。

 私の心は、その言葉に揺さぶられてしまう。


 この男には、恨みばかりしかないはずだ。それなのに、何故その言葉が私の心を揺さぶってくるのだろう。


「アノン、行きましょう?」

「うん……」


 こうして、私達とガランとの会話は終わるのだった。

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