第108話 捨てたくせに

 私とクラーナは、大悪人であり、私の父親でもあるガランと会っていた。

 ガランは、病気に侵されており、もう長くはないらしい。


「それで、私を呼びだした目的はなんなの?」

「……顔が見たかった。それだけだ」


 私が本題を切り出すと、ガランはそう答えてきた。

 どうやら、私の顔を見たかっただけらしい。この極悪人も、流石に最期となると、血の繋がった者が、恋しくなるようだ。


「私は、顔も見たくなかったけどね」

「ああ、そう思っていると思ったから、今までは呼び出さなかった」

「今までは? あなたが、私に興味があったとは、思えないけど?」


 ガランの言葉に、私は違和感を覚えた。

 まるで、今までもずっと会いたかったかのように、ガランは言っているが、そうとは考えられない。

 なぜなら、ガランは私を妊娠した母を捨てたのだ。そのような男が、私のことを心配していたとは思えない。


「そんなことはない。お前のことは、ずっと気にしていた」

「気にしていた? 私とお母さんを捨てて、どこかに行ったくせに?」


 ガランの発言に、私は反発した。

 私を気にしていたなら、お母さんを放っておいたりしなかったはずだ。

 そのため、ガランの言っていることが正しいとは思えない。


「それは、お前達のためだ。大悪人の俺が傍にいたら、あいつもお前もいい人生は歩めない。そう思ったのだ」

「……別に、傍にいなくても変わらなかったけどね」


 私とお母さんの人生は、決して楽なものではなかった。

 ガランの妻と娘という立場は、人々にとって冷遇するに充分なものだった。そのため、お母さんはとても苦労して、結局過労で亡くなってしまったのだ。


「結果的に、失敗だったという訳か……」

「なっ……」


 そこで、ガランは悲しそう目をする。

 そんな目をされると、私も動揺してしまう。

 弱っているからか、ガランはとてもしおらしくなっていた。そのことに、私のペースが崩れてしまうのだ。


「そんなことなら、お前達を俺の元に置いておけばよかったのか。俺はいつまで経っても、駄目な男だな……」

「うっ……」


 ガランの態度に、私はよくわからない気持ちになっていく。

 私は、この男を罵倒して、どうなると思っていたのだろうか。反発してくると、思っていたのだろうか。反発して欲しかったのだろうか。よくわからない。


「最も、お前も今は幸せそうだな……」

「え?」

「そっちの獣人のおかげか……」


 私がそんなことを考えていると、ガランはクラーナの方に目を向けた。

 クラーナは、その視線に驚いたような顔をする。


 私達とガランの話は、続いていく。

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