第107話 あの人との再会

 私とクラーナは、私の父親であるガランの部下に連れられて、ある場所へと来ていた。

 そこは、大悪人ガランの隠れ家である。ここに、病魔に侵されたガランがいるらしい。


「それで、あの人はどこにいるの?」

「この奥です」


 案内してくれた人は、奥の方にある扉を指さした。

 そこに、あの人がいるようだ。


「それにしても、すごいわね……」

「うん?」

「周りの人達のことよ」


 クラーナは、周りを見渡しながら、そんなことを呟いた。

 ここには、ガランの部下がたくさんいる。その部下達は、全員私に向かって頭を下げているのだ。

 確かに、その光景はすごいだろう。ただ、全然嬉しいとも思わない。


「皆、あの人の娘だから、そうしているだけだよ」

「あの人ね……」


 そんなことを話している内に、扉が開け放たれた。

 その奥の方で、ベッドに一人の男が寝転がっている。


「来てくれたか……」


 寝ている男は、こちらを向いて、そう呟いた。

 その顔は、少しやつれて老けてはいるが、見覚えがある顔だ。


「ガラン……」

「……アノン」


 男の名は、ガラン。

 私の父親に当たる人物だ。


 私とクラーナは、ゆっくりとその近くまで歩いて行く。

 すると、後ろの方で扉が閉まる音が聞こえた。部屋には、ガランしかいない。よって、三人だけになったのだ。


「随分と、いい姿になったね」

「はっ! いい姿ときたか……」


 私の言葉に、ガランは笑う。

 この男が父親であるという事実が、本当に嫌で仕方ない。


「そっちは、例の獣人か……」

「……はい。クラーナといいます」

「そうか。アノンが、世話になっているみたいだな」

「いえ、私の方こそ、アノンにお世話になっています」


 そこでガランは、クラーナに話を振った。

 妙なことを言わないかと警戒したが、意外にも普通のことしか言わなかった。だが、警戒は解かない。この男は、何をしてくるかわからないのだ。


 クラーナは、何故か丁寧な物腰である。一応は、私の父親なので、気を遣っているのかもしれない。


「病気なんだってね?」

「ああ、もう長くないらしい」

「そうなんだ……」


 私の質問に、ガランは短く答えた。

 その顔には、諦めのような感情が見える。欲望のままに生きてきた割には、なんとも潔いことだ。


「あなたが死んだら、皆喜ぶだろうね」

「そうだろうな。この俺のような極悪人など、そういないだろうからな……」


 私の皮肉にも、ガランは淡々と答えてくる。

 本当に病気で、もう助からないのだろう。


「最も、一応今は足を洗っているんだかな……」

「それでも、今までしたことは変わらない」

「……まあ、そうだな」


 ガランは、一応今は足を洗っている。その話は、聞いたことがあることだ。

 ここにいる部下達も、今は犯罪に手を染めていないらしい。そのこと自体は、いいことだとは思う。


 ただ、それでも今までしてきたことは変わらない。

 ガランという男は、極悪人に変わりないのである。


「だが、誰も俺を裁けなかった。結果的に、俺の一団は大きくなり過ぎたからな」

「……」


 ガランの一味は、その規模の大きさから、誰も手が出せなくなっていた。

 しかも、今は足を洗っている。そのことから、誰も裁きをくだそうとしないのだ。結果的に、無罪となっているという歪な状況なのである。


 こうして、私は自身の父親ガランと会うのだった。

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