第96話 風邪を引いているのに……

 クラーナが体を拭き終わり、私達は眠ることにした。

 体的にはまだ少しだるいが、朝よりはよくなっている。

 きっと、明日は治ると思う。


「アノン、もっと近づくわね……」

「え? あ、うん……」


 布団の中で、クラーナがそう言ってきた。

 あまり近づくと、風邪が移るかもしれない。そういう不安もあったが、最早今更だろう。

 という訳で、クラーナは私との距離を詰めてくる。


「さて、これでいいわね」

「うん……」

「アノン、夜中でも何かあったら、私を起こしてね」


 クラーナは、私の体に手を回して、そう言ってきた。

 その声色には、心配の感情が滲んでいる。それは、とても嬉しいことだ。


「うん。ありがとう、クラーナ……」


 私は、思い出す。クラーナと出会う前のことを。


 クラーナとである前の私には、体調が悪くなっても心配してくれるような人はいなかった。

 そのため、風邪などを引いたら、一人で過ごすことになるのだ。


 その時は、漠然とした不安ばかり抱いていた。だけど、今はそんなものはまったくない。

 それはクラーナがいるからだ。クラーナが傍にいる。それが一番の看病なのだと思う。これがある限り、私は風邪に負けたりしない。


「さて、お休みのキスをしないと駄目ね」

「え?」


 そこで、クラーナはお休みのキスを要求してきた。

 だが、それは流石にまずいのではないだろうか。

 キスは、直接口をつける。恐らく、風邪がとても移りやすいはずだ。

 そのため、私は少し躊躇ってしまう。


「アノン?」

「いや、キスなんてしたら、移っちゃうかなって……」

「大丈夫よ。アノンからなら、平気だもの……」

「え?」


 クラーナは、よくわからないことを言ってきた。

 私から移るからといって、平気な訳はない。


「それに、一回だけなら平気よ。軽いキスだもの……」

「一回だけなら……」


 だが、次の言葉は理解できた。

 確かに、一回だけならいいかもしれない。

 それに、私が何を言っても、クラーナは止まらないだろう。

 これは、キスするべきだ。


「わかった。キスしてもいいよ」

「そう? それなら、いいわね……ん」

「ん……」


 という訳で、私達は唇を重ねた。

 今日は、なんだかんだキスできていなかったため、とてもいい気分になれる。


「ふう、やっぱりキスはいいわね……」

「うん……」

「もう一回したいところだけど、今日はやめておかないとね」

「後は、治ってからだね……」


 唇を離して、私達は笑い合う。

 今日は、これでおしまいだ。明日は、もっとできればいいな。


「それじゃあ、お休み、アノン」

「お休み、クラーナ……」


 こうして、私達は眠りにつくのだった。

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