第72話 隠れて嗅ぐのは駄目だと思う

 夕食を終えてしばらく経った後、私とクラーナはお風呂に入ることにした。

 今は、脱衣所で服を脱いでいる。


 色々あったというのに、未だにこの瞬間は恥ずかしいものだ。

 といっても、少し裸を見て欲しいという気持ちもある。そんな微妙な感情で、私は服を脱ぐのだった。


「アノン、脱げたわよ」

「あ、うん……」


 私がそんな風に葛藤している内に、クラーナは服を脱ぎ終わったようだ。

 少し、後ろを見てみると、タオルで体を隠したクラーナがこちらを見ているのが確認できる。


「クラーナ? あんまり、見ないで欲しいんだけど……」

「あら、ごめんなさい。少し、見惚れてしまったわ」


 私が声をかけてみると、クラーナがそう言ってきた。

 流石に、見られていると脱ぎにくいのだが、そう言われると許したくなってしまう。


「ごめん、クラーナ、別に見ていてもいいよ。そんなに、面白いものではないと思うけど……」

「そう? それなら、見させてもらうわ」

「あ、うん……」


 私が見てもいいと許可すると、クラーナの声色が変わった。

 とても、嬉しそうな声色になったのだ。そんなに、見たかったのだろうか。


 クラーナの熱い視線を感じつつ、私は服を脱いでいく。

 許可したからか、クラーナに遠慮というものはなく、色々な所を見られてしまった。

 なんだか、とても恥ずかしい。でも、クラーナが喜んでくれているなら、嬉しいとも思う。


「それじゃあ、入ろうか」

「ええ……」


 そんな微妙な感情を抱えつつ、私はそうクラーナに声をかけた。

 脱衣所で立ち止まるものもよくないので、早く洗い場に行った方がいいと思ったのだ。

 そのため、率先して洗い場に入っていく。


「あれ?」


 そうやった洗い場に入った私は、思わず声をあげてしまった。

 クラーナが、私に続いて入って来ないのだ。


「クラーナ? ……え?」


 私は後ろを振り返って、脱衣所に戻る。

 すると、クラーナがいた。そのクラーナに、私はまたも思わず声をあげてしまう。


「クラーナ……何しているの?」

「あ、ア、アノン……これは、違うのよ」


 クラーナは、裸のまま私の下着を手にとり、匂いを嗅いでいた。

 この状況で、違うというのは無理があるだろう。

 流石に、これは恥ずかしいし、クラーナのこの行動に対して、色々言いたくなってしまう。


「ご、ごめんなさい……つい……」

「つ、ついじゃないよ。こんなことしたら、駄目だよ」

「え、ええ……」


 クラーナも、これには反省しているようだ。

 わかっているなら、あまり言うのはやめておこう。


「わかっているなら、いいけど……」

「ごめんなさい、アノン……もう、嗅がないわ」

「あ、いや、嗅ぐのはいいよ」

「え?」


 私の言葉に、クラーナが目を丸くした。

 もしかしたら、クラーナは嗅いだことが悪いことだと思っていたのだろうか。

 確かに、それはちょっと恥ずかしいことだが、私が怒っているのは別のことである。


「クラーナ、私が言いたかったのは、隠れてこんなことしたら駄目ってことだよ?」

「え? そうだったの? それなら、これからも嗅いでいいの?」

「うん、少し恥ずかしいけど、それは許してあげるよ。でも、今度はちゃんと私に許可をとってね」

「え、ええ、それはもちろんよ」


 私の言葉に、クラーナが笑顔になる。

 下着の匂いを嗅がれるのは恥ずかしいが、クラーナに我慢させたいとも、私は思わなかった。

 そのため、この行為自体は許可することにしたのだ。ただ、これだけではフェアではない気がするので、交換条件を出させてもらおう。


「その代わり、私も匂ってもいい?」

「え?」

「交換条件……かな? 私だけって、フェアじゃないし……」

「……そ、そうね。それなら、それでいいわ……」


 クラーナは、私の提案を受け入れてくれた。

 これで、交渉成立だ。


「さて、それはそれとして、お風呂に入ろうか。この話は、また後ってことで……」

「え、ええ、ごめんなさい、アノン。私のせいで、色々と手間取ってしまって……」

「別にいいよ。こういうのも、楽しいし……」


 そんな話をしながら、私達は洗い場に行くのだった。

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