第66話 その後の朝でも

 カーテンの隙間から差す日の光に、私は目を覚ます。

 どうやら、もう朝であるようだ。


「あっ……」


 そこで、私は気づく。

 自分が、一糸も纏わぬ姿であるということに。


 よく考えたら、昨日はこの格好で寝ていたのだ。


「……あ」


 隣には、同じく一糸纏わぬクラーナが眠っている。

 安らかな寝顔だ。その寝顔も、とてもかわいい。


「……う」


 ただ、その姿を見ていると、少し妙な気持ちになってくる。

 昨日、あれだけ色々したのに、どうしてこうなってしまうのだろう。


 今なら、クラーナにキスしても、体を触ってもばれないかもしれない。

 しかし、そんなことをするのはなんだか卑怯だと思うので、我慢する。


 それに、私がクラーナの立場で、触られたとしたら嫌な気持ちになるはずだ。いや、考えてみたら、全然嫌ではない。

 だが、それは私の考えなので、クラーナに押し付けるのはよくないだろう。


「ん……」


 私がそんなことを考えていると、クラーナが声をあげた。

 どうやら、クラーナも起きたようだ。


「お、おはよう、クラーナ」

「おはよう、アノン。今日も、かわいいわね」

「え?」


 寝ぼけているのか、クラーナはそんなことを言ってきた。

 朝からそんなことを言われると、大変動揺してしまう。


「さて……」


 さらに、クラーナは私との距離を詰めてきた。

 クラーナの顔が、私の顔に近づいてくる。

 それが何を意味するか、私はすぐにわかった。


「ん……」

「んん……」


 クラーナが、私の唇を奪う。

 ただ、目覚めてすぐだからか、今回は軽いキスだ。

 唇が一瞬触れただけで、クラーナが離れていく。


 いつものもいいが、これもいいものだ。


「いや、きゅ、急にどうしたの?」

「おはようのキスよ」

「おはようのキス……」


 クラーナは、そんな恥ずかしいことを平然と言ってきた。

 嬉しいので別にいいが、とても恥ずかしい。もしかして、クラーナは昨日のテンションが抜けていないのだろうか。


「ところで、アノン。なんだか、私を見ていたみたいだけど、どうかしたの?」

「え? ああ、えっと……」


 そこで、クラーナはそんなことを聞いてきた。

 眠りが浅かったのか、私の視線に気づいていたようだ。


「実は、クラーナに触りたいって思って……」

「あら……」


 少し迷ったが、私は素直に答えることにした。

 隠しても仕方がないことだし、黙っておくのも悪い気がしたのだ。


 私の言葉を受けて、クラーナは少し笑う。

 その表情は、怒っているようには見えない。


「昨日、あれだけ色々な所をたくさん触ったのに、まだ触りたいのね」

「え、あ、うん……」

「でも、気持ちはわかるわ。私も触りたいもの」

「そ、そうなんだ……」


 クラーナは私に対して、そんなことを言ってきた。

 少しからかい混じりだが、きちんとフォローもしてくれる。そんな感じの言葉だった。


「あ、触りたいなら、触ってもいいわよ」

「ええ?」


 さらに、クラーナはそう言ってきた。

 その言葉に、私は思わず驚いてしまう。

 とても軽い感じだが、とんでもないことを言っているのではないのだろうか。


「私は、アノンに寝ている間に触られても、大丈夫よ。もちろん、限度はあるけれど……」

「そ、そうなの……?」

「ええ、その代わりというのはなんだけど、私もアノンに触らせてもらうわよ?」

「あ、うん……」


 私と同じく、クラーナは寝ている間でも気にしないようだ。

 というか、交換条件のようなものを出された気がする。まあ、それはまったく構わないのだが。


「さて、アノン。そろそろ、起きようかしら」

「あ、そうだね」


 クラーナにそう言われたので、私は反射的に体を起こす。

 確かに、もう朝なので、早く体を起こさなければならないと思ったのだ。

 ただ、これは少し迂闊だった。なぜなら、私は今何も着ていないのだから。


「あっ……」

「あら……」


 私の全てを、クラーナに見られてしまう。

 もちろん、今までも見られていたが、今回は少し状況が違った。


 私とクラーナは、昨日することをしたのだ。

 それから、あまり時間が経っていない状態で、裸を見られる。

 熱が完全に冷め切ったとは言い難そうなクラーナに、これはまずいかもしれない。


「……アノン」


 クラーナが体を起こし、ゆっくりと私に近づいてくる。

 少し頬を染めながら、欲望を持ったその表情は、私の考えを裏付けていた。

 これは、そういうことだろう。


「クラーナ……」


 ちなみに、私の方も我慢できなくなってきた。

 その表情と、体を起こしたことで現れたクラーナの体に、私も興奮してしまったのだ。


「んん……」

「ん……」


 クラーナが、私の唇を奪ってきた。

 今度は、先程と違い、深いキスだ。


 さらに、私の体はゆっくりとクラーナに押し倒されていく。

 私も、それを拒まない。


 どうやら、私達はまだまだベッドの上にいなければならないようだ。

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