第65話 私達のやり方で

 私とクラーナは、ベッドの上に並んで座っている。


 私が寝室に来てから、少し時間が経っていた。

 その間、私達はただ黙って座っているだけである。


 ここに来て、ここに座れば何かが起こると思っていた。

 だが、それは甘い考えだったようだ。


 恐らく、クラーナも同じだと思うが、どうしていいかわからないのである。


 まず、何を言えばいいのかわからない。

 普通の会話をするのは、違うと思うし、黙ってするのも駄目だろう。そう考えて、気の利いた台詞を放とうと思ったが、そんなのは知らない。

 そのため、私は一言も発せないのだ。


 次に、何をすればいいかわからない。

 そんなことしたことないから、どう行動すればいいのかわからないのである。

 体に触れればいいのか、キスをすればいいのか、それがわからないので、動けないのだ。


 そんな感じで、私達はお互い喋れず動けず、緊張するだけの空間が続いていた。

 それはとても息苦しくて、そろそろ限界だ。


「……クラーナ?」


 そのため、私は口を開いていた。

 とりあえず、名前を呼んでみたのである。


 すると、クラーナの耳が少し動く。


「ア、アノン……」


 そして、こちらに笑顔を向けてきた。すごく、かわいい。

 クラーナも、動けずいたので、私の言葉が嬉しかったのだろう。

 問題は、ここから何を話すかだ。


「あのね……その……」

「ええと……」


 私とクラーナは、同時に声を出してしまう。


「……あはは」

「……ふふ」


 そこで、私達は笑い始めた。

 なんだか、おかしくなってきたのだ。


「アノン……その、ごめんなさいね」

「え?」


 クラーナが少し笑いながら謝ってきた。

 ただ、私は謝れる覚えなどない。

 この状況のことなら、私にも責任があるので、クラーナが謝る必要などないはずだ。


「私が、かなり重い空気を作ってしまったわ。お風呂の前から、ずっと……」

「え? そ、そんなことは……」

「いえ、そうなのよ。こんな風に、緊張させたのは、私の責任だわ」


 私が止めようとするのも聞かずに、クラーナは言葉を続けた。

 どうやら、一連の流れを全て汲んでのことだったようだ。

 ただ、それでもクラーナだけに責任がある訳ではないだろう。


「もっと、簡単なことだったのよ。きっと」

「簡単なこと?」

「ええ、私とアノンは、いつも通りでいいはずなんだわ。こんな風に、事前にどうこうしなくても、もっと簡単な方法があるのよ」

「そ、それって、どういうこと?」


 クラーナは、さらに話を続けた。

 その内容は、私にはよくわからないことである。


 ただ、クラーナのおかげで、少し緊張はほぐれてきた。

 それが、いいことか悪いことかはわからないが、とりあえずよしとしよう。


「アノン、こっちに来て」

「あ、うん……」


 クラーナに誘導されて、私がベッドに寝転がる。

 ベッドの上で、クラーナと向き合う。

 しかし、そこに先程までの緊張はない。


「さて、アノン、今日も撫でてもらえるかしら?」

「え? 撫でる?」

「ええ、いつもみたいに頭を撫でて欲しいの」

「ま、まあ、いいけど」


 クラーナに促されて、その頭に手を伸ばす。

 いつも通り、ふわふわの髪に手を乗せ、ゆっくりと撫でていく。


「ん……」


 撫で始めると、クラーナが気持ちよさそうな蕩けた表情になる。

 この表情は、いつ見てもかわいらしいものだ。


「それじゃあ……」

「あっ……」


 いつも通り、耳の付け根を撫でていく。

 すると、クラーナが顔を赤くする。

 ここはかなり敏感なので、気持ちよさもすごいのだろう。


「クゥン……」


 クラーナが、私との距離を詰めてきた。

 その表情は、何かをねだっているような表情だ。


 私はそれが、顔を舐めたいという要求だと気づく。

 同時に、クラーナがどういう意図を持っていたか、理解できた。


 つまり、私達はいつも通りじゃれ合えば、そういう雰囲気になるということだ。

 考えてみれば、いつもそうだった。何をするべきかなど、最初から決まっていたのだ。


「……いいよ」

「あっ……」


 私は顔を近づけ、クラーナにそう言う。

 すると、クラーナが舌を伸ばし、私の顔を舐め始める。


「ペロ……」

「ん……」


 いつも通りの生温かい湿った感覚が、気持ちいい。

 それに合わせて、私ももう片方の手を動かす。狙いは、クラーナのお腹である。


「んん……」


 お腹を撫でると、クラーナはさらに気持ちよさそうな表情になった。


「んっ……」

「んっ!?」


 そこで、クラーナは舐めるのを中断し、私の唇を奪う。

 口の中に、クラーナの舌が入ってくる。


 それに対抗し、私は頭を撫でていた方の手を動かす。

 こちらの狙いは、尻尾の付け根だ。

 クラーナの服をめくり、尻尾の付け根を撫でていく。


「んんっ!?」


 私の行為に、クラーナは少し驚いたようだ。

 だが、すぐにそれを受け入れてくれた。


「ん……」

「ん……」


 だんだんと、私達はそういう雰囲気になっていく。

 恐らく、私達はこのままそうなるのだろう。今は、それが簡単に受け入れられる。

 緊張しているのは確かだ。ただ、それでも自然にそうなれる気がする。


 そのまま、私達の行為は続いていくのだった。

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