第64話 一人、お風呂で考えて
ソファの上で呆然としている私の元に、クラーナがやって来た。
「アノン……あがったから、次どうぞ……」
どうやら、お風呂から上がったようだ。
それだけ言って、クラーナは駆けて行く。
恐らく、寝室に向かったのだろう。
そこで、私を待つのだ。
「私も……お風呂、入らないと……」
緊張と混乱をしながらも、私は立ち上がる。
クラーナが覚悟を決めたのだから、私も覚悟を決めなければならないだろう。
それが、クラーナに応えるということだ。
震える足で、なんとかお風呂場まで歩いて行く。
脱衣所の戸を開けて、中に入り、服に手をかける。
迷っていてはいけないと思い、服は早く脱ぐ。
クラーナがいないので、恥ずかしくはないはずだが、これからすることが頭にあるからなのか、裸になることにとても緊張してしまう。
「ふう……」
ゆっくりと深呼吸しながら、戸を開けて、洗い場に入る。
久し振りの一人でのお風呂からか、なんだかとても広く思えた。
「……」
シャワーに手をかけて、私は少し考える。
この後のことを思えば、体は念入りに洗っておきたいところだ。
ただ、クラーナは私が体を洗い過ぎるのは嫌だと言っていた。なんでも、私の匂いが落ち過ぎるかららしい。
石鹸の匂いも嫌いではないようだが、それよりも私の匂いを好きだと思っていてくれるのだ。それを聞いた時は、恥ずかしながらも嬉しかった。
そのため、今回も普通に洗えばいいはずだ。
むしろ、あまり洗わない方がいいのだろうか。いや、それは私が嫌だな。
「よし……」
という訳で、私は普通に体を洗う。
帰って来てからも、体は洗ったが、それなりに汗をかいていた。色々と、焦ることがあったからだ。
「……」
黙々と体を洗いながら、先のことを考える。
どんな顔をして、クラーナの元に行けばいいのだろう。
そう考えたが、答えはすぐに出た。なぜなら、緊張しているため、顔を作ることなどできないからだ。
「……これで、いいかな?」
体の全てを洗い終わり、私は湯船に入る。
いつもと違い、湯船が広い。ただ、それは嬉しくはなかった。
やはり、お風呂はクラーナと一緒の方がいい。
とりあえず、私はしばらくお風呂にいるのだった。
◇◇◇
お風呂から上がり、体も拭いて、髪も乾かし、服を着て、私の準備は完了だ。
後は、寝室に向かうだけである。
それが、一番緊張することなのだが、どうしよう。
「ふう」
とりあえず、深呼吸。
それにより、少しは落ち着いてきた気がする。
「……行こう」
自分に言い聞かせ、足を動かす。
目的地は、クラーナが待つ寝室だ。
「ふう……」
寝室の前で、もう一度深呼吸をする。
戸に手をかけ、ゆっくりと開けて中に入っていく。
「あっ……」
「あっ……」
すると、ベッドに座っているクラーナが目に入る。
クラーナもこちらに気づいたようだ。
クラーナの顔はとても赤い。恐らく、私の顔も同じくらい赤いだろう。
それにしても、クラーナはずっとベッドに座って待っていたのだろうか。それなら、もう少し早く来ればよかった。
「アノン……」
「うん……」
クラーナに促されて、私はその隣にゆっくりと座る。
いよいよ、私とクラーナの長い夜が始まるのだろうか。
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