第63話 それはつまり……

 私とクラーナは、シャワーを浴び終わっていた。

 今は、体も拭いて、服も着て、いつも通りの格好だ。


「さて、アノン……そろそろ、夕食の準備を始めましょうか?」

「あ、うん、そうだね」


 そこで、クラーナが私にそう言ってきた。


 お風呂場であったことは、あれからお互いに触れていない。

 クラーナが何を考えているかわからないが、それに触れてこなかったので、私からも触れないことにした。


 もしかしたら、シャワーの後に何かあるかとも思ったが、とりあえずは安心してもいいのかもしれない。

 少し残念にも思うが、とりあえず考えないことにしよう。


「久し振りのクラーナの料理、楽しみだなあ」

「そう? そう言ってもらえると、嬉しいわ」


 という訳で、今からは夕食の準備だ。

 クラーナの料理を食べるのは、一日振りくらいなので、とても楽しみである。


「それじゃあ、台所に行きましょうか?」

「うん!」


 こうして、私とクラーナは台所に向かうのだった。




◇◇◇




 その後、私とクラーナは普通に夕食を食べた。

 調理中も、食べている時も、クラーナは何もしてこず、むしろ寂しいかったくらいだ。


 シャワーでの出来事があったからといって、そこまで遠慮しなくてもいいのに。


「アノン、そろそろ、お風呂の時間ね」

「え? あ、そうだね」


 私がそんなことを考えていると、クラーナがそう言ってきた。

 夕食を食べ終わり、少ししたので、いつもお風呂に入っている時間なのだ。


「それで……アノンに相談があるの」

「そ、相談? 何かな……?」


 そこで、クラーナが少し真剣な表情になった。

 一体、どうしたのだろうか。

 なんだか、嫌な予感がする。


「……お風呂は、別々にしましょう」

「クラーナ!? 何を言っているの?」

「落ち着いて、アノン……」


 クラーナの言葉に、私は思わず大きな声を出してしまった。

 ただ、こんな提案に落ち着くというのは無理である。


 クラーナが、先程のことに責任を感じて、お風呂に一緒に入らないというなら、私はそれを止めなければならない。

 なぜなら、クラーナは悪くないからだ。


 そもそも、シャワーの前に言っていたことと矛盾している。


「落ち着いてって、落ち着いていられる訳……んっ!?」

「んん」


 そう思い、さらに言葉を続けようとしていた私の口は、強引に塞がれた。クラーナの唇によって。


「ふう……」

「あっ……」


 数秒そのままでいて、クラーナがゆっくりと唇を離した。

 クラーナの行為によって、私の心は混乱してしまう。上手く、考えがまとまらないのだ。


「さて、アノン。言っておくけど、お風呂が別々なのは……その後のためよ」

「え? その後?」

「ええ、私が先に入って、寝室で待っているわ。心の準備ができたら、アノンも寝室に来て」

「え? それって……」


 そんな私に、クラーナはそう畳みかけてきた。

 その言葉は、私がさっきまで考えていたことを否定する。


 そして、何より、これから自分がどうなるのかを予想させるものだった。

 そのことに、私の心は大きく動揺してしまう。


「いい……わよね?」

「え……あ、うん……」


 クラーナに聞かれて、私はそう答えていた。


 緊張するし恥ずかしいけど、そうなるのは嬉しい。

 動揺はしていたが、それは私の本心だ。


「それなら、私はお風呂に入ってくるから……」


 それだけ言って、クラーナはお風呂の方に駆けて行く。

 残された私は、色々なことを考えるしかなかった。

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