第59話 思いを告げたくて

 サトラさんと別れた私とクラーナは、隠れ里の出入り口に辿り着いていた。


「……まだ、開いていないみたいね」

「……うん、そうだね」


 出入口は、まだ開いていないように見える。

 開くときには、光り輝くと聞いているが、今は光っていないからだ。


「まあ、いいわ。少し、待ちましょう」

「うん……」


 そのため、私達は少し待つことにした。

 長老がもう少しで開くと言っていたので、そんなに長い時間ではないはずだ。


「クラーナ……少し、いいかな?」

「あら? 何かしら?」


 そこで、私はクラーナにそう話しかけていた。


 今、私はクラーナに言っておきたいことがあるのだ。

 それは、とても重要なことである。

 ここで言っていいのかわからないが、勇気が出ている内に言うべきだと思った。


 もしかしたら、これでクラーナと気まずくなるかもしれない。

 しかし、根拠はないが、なんとなくクラーナは受け入れてくれる気がしていた。


 とにかく、私は言うと決めたのだ。


「クラーナ、実は、私……」

「……待って、アノン」

「え?」


 そんな決意をしていた私だったが、クラーナがそう言ってきたことによって、言葉に詰まってしまう。

 こんなところで止められるなど、思っていなかった。


「私、アノンが何を言いたいか、わかってしまったわ」

「ええ!?」


 戸惑う私に、クラーナはさらにそんなことを言ってくる。

 何を言いたいかわかったのに、止められるとはどういうことだろうか。

 もしかして、私がこれから放つ言葉が、嫌なのかもしれない。

 それなら、とても辛くなってしまう。


「アノンの方からそれを言われる訳にはいかないわ。だって、先にそう思ったのは、私の方だから……」

「え?」


 クラーナの言葉に、私は驚く。

 もしかして、期待してもいいのだろうか。


 ドキドキしている私は、次の言葉を待つ。

 その瞬間は、一瞬のはずなのに、とても長い時間に感じられる。


 そして、ゆっくりとクラーナの口が動き始めた。


「好きよ、アノン。私の恋人になってもらえないかしら?」

「あ、あ、あ……」


 クラーナから告げられたのは、私が言おうとして遮られた言葉だ。

 その言葉の意味は、もちろん特別なものである。


 クラーナも、きっと勇気を出してそう言ってくれたのだ。

 それなら、私もその言葉に応えなければならないだろう。


「私も好きだよ、クラーナ。だから、よろしくお願いします……」

「アノン……ありがとう」


 そう言った後、クラーナは顔を近づけてきた。


 それが、何を意味するのか、すぐにわかる。

 だから、私も顔を近づけていく。


「ん……」

「ん……」


 ゆっくりと、唇が重なる。

 唇が触れるだけの優しいキス。


 今までも、何回かキスはしてきた。

 これよりも、もっと深いキスだってしたはずだ。


 だけど、これは今までのどのキスよりも、甘かった。

 これがきっと、特別な関係になるということなのだろう。




◇◇◇




 しばらくキスをした後、私とクラーナは元の体勢に戻っていた。

 まだドキドキが収まらないが、これは仕方ないだろう。


 手を繋いでいるクラーナの体温も、少し高い気がする。

 きっと、私と同じ状態なのだろう。


「そ、その……」

「な、何かしら……?」


 そんな中、私はクラーナに話しかけていた。

 それは、あることを聞くためである。


「ク、クラーナの方が、先に……そう思ったって、言ったよね? あれって、どういうこと?」

「あ、ああ、そのことね……」


 それは、私が少しだけ気になっていたことだ。


 クラーナが、私より先に好意を抱いてくれたというのは、嬉しいとは思う。

 ただ、それがいつかわからないのだ。


「私がクラーナを……好きだって、自覚したのは、ついさっきだったけど、好きになったのはもっと前だよ? 多分、一緒に暮らし始めて、一日目くらいにはもうそうなっていたと思う」


 私がクラーナのことを好きになったのがいつかは、正確にはわからない。

 ただ、私が友情なのか恋心なのか判断できていなかった時には、既に好きだったのだと思う。

 それは、かなり早い段階のことだ。

 そのため、クラーナの言っていることが間違っているかもしれない。


「だから、クラーナが私を好きになったのは、私より後ではないかと、思ってしまったんだけど、どうかな?」

「ふふ」


 私の言葉に、クラーナは笑う。

 何故かわからないけど、それは勝ち誇ったような笑顔だった。


「残念だけど、私の方が早いわ。だって、私はアノンが、私のために拳を振るってくれた時には、もう好きになっていたもの」

「え?」

「まあ、その時に芽生えて、どんどん増していったという感じだけど、どんなに小さくても、好意は好意よね」


 どうやら、クラーナが私を好きになったのは、半日くらいの時だったようだ。

 そのことは、とても嬉しい。


 ただ、少しだけ悔しい気もしてくる。


「で、でも、私はクラーナのこと、出会った時から綺麗で可愛らしいと思っていたよ?」


 そのため、私はそんなことを言っていた。

 謎の対抗意識である。


「それを言うなら、私だって最初に会った時から、いい匂いがする子だなと思ったけど……って、これはなんの勝負なの?」


 私の言葉に、クラーナはそう言ってきた。

 クラーナも対抗しているのに、聞いて来ないで欲しい。


「ふふ……」

「あはは……」


 私とクラーナは、笑い合う。

 なんだか嬉しくて、楽しくて、そうなってしまったのだ。


「うん?」

「あら?」


 そこで、出入り口に変化があった。

 草の間から、光が漏れ始めたのである。

 どうやら、出入り口が開いたようだ。


「さて、やっと帰れるわね」

「うん!」


 出入口が光り輝くのを認識し、私達は歩き始める。

 こうして、私達は元の世界へと帰るのだった。

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