第49話 隠れ里の事情は
私とクラーナは、森の奥にある不思議な場所で、長老と呼ばれる人物の家に来ていた。
そこで、この場所が、犬の獣人達が暮らす隠れ里だと教えられたのである。
「犬の獣人は、人間達と同じ世界に暮らしていると、多くの差別、迫害を受ける。故に、わしらだけで暮らす場所が必要だったのじゃ」
「……なるほどね、大体はわかったわ」
長老の言葉に、クラーナは納得したように頷く。
私も、長老の言葉によって、この隠れ里がどういうものかわかった。
どうやら、ここは人間達の差別から逃れるための場所らしい。
道理で、人間の私に対して、あそこまでの敵意を向けてきたはずだ。
人間から隠れるための場所に、人間が入ってきたのだから、あの態度も当然なのかもしれない。それを許せるか許せないかはともかく、感情としては仕方ないと思える。
「ここの者達は、人間を恐れている者達がほとんどじゃ。あまり、いい扱いはされてこなかったようじゃからな。だから、差別などしない人間がいるということを知らんのじゃ。申し訳なかった……」
「……それはそうかもしれないけど、アノンに弓を向けたことを、私は許すことなどできないわ」
「クラーナ……」
長老の謝罪を受けても、クラーナは怒っていた。
それは、私に弓を向けたからという怒りである。そのことに、クラーナは私以上に怒ってくれているようだ。
「クラーナ、もういいよ。無事だったんだから、それでいいんだよ」
「アノン……」
とても嬉しいことだが、これ以上怒っても、仕方ないことだろう。そう思い、私はクラーナを止めていた。
「……わかったわ。アノンがそう言うなら、一先ずは抑えることにする。でも、これ以上アノンに危害を加えたら、私はここにいる者達を許さない」
「……皆には、厳重に注意することにしよう」
私の言葉に、クラーナはなんとか怒りを収めてくれたようだ。
とりあえず、これで大丈夫だろう。
「それで、話はそれだけなのかしら?」
「……いや、まだ少し問題があるのじゃ」
「問題?」
クラーナが訪ねると、長老からそんな言葉が放たれた。
まだ、何か問題があるようだ。
「うむ。実は、お主達の通ってきた道は、ある一定の期間しか開かんのじゃ」
「なんですって?」
「あの道が次に開くのは、明日になる。故に、お主達にはここに滞在してもらう必要があるのじゃ」
長老の言葉に、私とクラーナは目を丸くする。
どうやら、明日までここから出られないらしい。
それは流石に困ってしまう。
「もちろん、泊まる場所は提供しよう。申し訳ないが、少し待っていてもらいたい」
「……クラーナ、ここは」
「……わかっているわ」
「それじゃあ、お願いします、長老」
しかし、これはどうしようもない問題だ。
そのため、私は長老に頭を下げてお願いする。
こうして、私とクラーナは明日になるまで、この隠れ里で過ごすことになったのだ。
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